Sさんの場合(セブン-イレブン加盟店オーナー)

 2021年、契約の更新を迎える群馬県のセブン-イレブン加盟店オーナーSさんは、本部の無理難題に悩んでいる。

 Sさんは、セブン-イレブンを開業して29年目になるAタイプ(土地及び店舗建物をオーナーが所有しているタイプの契約)店舗のオーナーである。セブン-イレブンの場合、契約期間は15年間であるから、Sさんの店舗は来年に契約30年目の更新を迎える。これからも、セブン-イレブンを続けることを希望し、契約の更新を控えたSさんに、本部はある要求をしてきた。
 
 Sさんの店舗は開店して29年になるため設備が老朽化しはじめていた。これが気に入らない本部は、Sさんに対して、上下水道から空調設備など店舗の大改修を求めてきたのだ。Aタイプの場合、店舗建物は加盟店オーナーが所有しているから、この大改修の費用は、全てSさんが負担する。そして、この費用を見積もると約3000万円にもなる。果たして、Sさんにとって、これは簡単にできることなのであろうか。
 
 現在、Sさんの店舗の平均日販は約40万円である。「40万円」と聞くと繁盛しているように思えるかもしれないが、全国のセブン-イレブン店舗の平均日販は約65万6000円である。決して売上が良い店ではなく、実際問題、経営はかなり厳しい。だから、この大改修は容易にできることではない。

 もちろん、本部は「大改修をしなければ契約の更新をしない」と直接的にSさんに伝えているわけではない。しかし、契約の更新を控える側からすると、この本部の要求が絶対的な命令であるかのように聞こえてしまっている。現在も、Sさんは大改修をすべきか思い悩んでいる。

繁盛店になると同一チェーン店が次々と出店してくる

 別の視点からも、Sさんの店舗の話をしよう。すでに述べた通り、Sさんの店舗の平均日販は約40万円である。どうしてこのような日販になってしまっているのか、その理由は、本部によるドミナント戦略のためである。
 
 Sさんの店舗はもともと、それほど売上が高い店舗ではなかった。この状態を立て直すべく、Sさんは必死な思いで店舗経営の改善に取り組んだ。この努力が実り、ようやく店舗の売上が上向いてきたと思った矢先、近くに同じセブン-イレブン店舗が出店してきた。

 しかも、これが起きたのは一度だけではない。二度も同じことが繰り返された。同じセブン-イレブン店舗の出店による売上減からようやく抜け出せたかと思ったら、また、別の近隣に同じセブン-イレブン店舗が出店してきたのである。この結果、Sさんの店舗は、現在の日販になってしまっている。

 このように本部による契約の更新拒絶と同じように加盟店を苦しめているものがドミナント戦略による同一チェーンの新規出店である。

 同じチェーンの店が、自分の店舗の近隣に出店して来たら、売上が下がってしまうのは当然だ。
 
 ドミナント戦略は、加盟店店舗の経営状態を傾けるものである。実際、このドミナント戦略によって、加盟店店舗が閉店に追い込まれたり、加盟店オーナーの家庭が崩壊する事件が起きたりしている。そこで、ドミナント戦略とは一体何なのか、どうしてこのようなことが行われるのかについて解説をしたい。