電気自動車VISION-Sを発表したソニーの狙い

事業戦略は、5~10年後のビジネスロードマップを描きながらも、1~2年後のマネタイズついても考える田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。

 自動運転時代に先立って、2020年のCESでソニーは電気自動車VISION-Sを発表した。

 「21世紀に入ってから、モバイルによるパラダイムシフトが起こり、人々のライフスタイルが変わった。次の大きなインパクトは、モビリティであると考えた。そこで、ソニーが得意とするセンサー技術やAV技術を取り込んで、ソニーがどんなユーザー体験ができるのかを追求することになる。(中略)パーソナルの空間としてクルマを捉え、車内での楽しみ方、過ごし方を考えた」

 上記はソニー執行役員の川西泉氏のコメントだ。

 これまでのテクノロジーインフラだった車は、4Gの活用どころか、インターネットにすら接続していないものも多く、インターネット上にあるデータを活用できていなかった。ソニーのこのプロトタイプの発表は、既存のバリューチェーン/サプライチェーンの中で、なかなか身動きが取れない既存のカーメーカーに2つの衝撃を与えたと言える。

 ・5G/自動運転というテクノロジーインフラを活用して、車内空間に乗車体験ベースの新たなプラットフォームを提案した点

 ・自動車業界から見たらソニーという「外様」が参入してきた点

 VISION-Sが今後、成功するかどうかは未知数だが、この発表は業界に衝撃を与えた。

 このVISION-Sの発表のように、今後5~10年は、新たなテクノロジーインフラの上で覇権を狙う、業種を超えた新しいプラットフォーマーの参入が相次ぐだろう。なぜなら、自動運転の世界では、これまでとは異なる競争軸が必要になるからだ。

 自動運転が浸透した世界を想像してみると、人は車を「自ら運転して移動するツール」として扱うのではなく、「移動の際に身を委ねる閉ざされた空間」として認識するようになるだろう。結果として、人は、「運転しやすさ」「運転の楽しさ」よりも「車内での快適さ」「車内でのエンタメ性」という軸で車を選ぶようになる可能性が高くなる。

 このように、事業の戦略を考える場合、5~10年後がどうなるのかを想像しながらビジネスロードマップを描きつつも、マネタイズしていく1~2年後の市場についても考慮していく。連載の第19回で紹介したGo-To-Marketのフレームワークをベースにして、市場のどこのセグメント/バリューチェーンが、最初のターゲットになりそうか? 最初にニーズが顕在化しそうなのはどこか? などを考えていく必要があるのだ。