まして、慢性痛を入院治療するという概念は全くと言っていいほど認知されていないため、同センターには、方々の医療機関を渡り歩いたけれど「どの治療法も効かなかった」という患者が、藁(わら)にもすがる思いでやってくるケースが多い。

千里山病院
千里山病院の外観 写真:千里山病院提供

 取材当日も、70代の女性が配偶者とともに入院前診断に訪れていた。センターは患者1人に対して医師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士の4者からなるチームを組み、協力して治療にあたる。それぞれが20分ずつ診察した後、柴田医師を囲んで検討会を行い、入院の必要性の有無も含めて治療方針を決めて行く。

 慢性痛が続く状態は、疾患そのものの性質、心理社会的要因、医療者側の要因が複雑に関わって、症状の改善が難しく、痛みのために活動量が少なくなり、心理的な問題を生じ、生活の質が低下すると言われている。問題が多様過ぎて、医師だけでは対応できないというのが柴田医師の考えだ。

 診察のトップバッターはセンター長でリハビリ専門医の高橋紀代医師。診察室の椅子に腰かけるや否や女性患者は堰を切ったように話し始めた。

・痛みは全身にあり、強い痛み止めのお陰でなんとか動けるが、薬がなければ寝たきりになるだろう
・薬を飲みつづけることには抵抗があり、減らしたい、止めたいと思っている
・痛みの発端は10年ほど前、「脇腹の痛み」で受診した整形外科で受けた手術によるもの
・術後、脇腹の痛みは消えたが、代わりに身体のあちこちが痛むようになった。しかしどの医療機関でも「身体に異常はない」と言われ、気のせいにされた
・これまで、ありとあらゆる治療を受けてきたがどれも効かなかった
・あまりの辛さに、海外での安楽死を考え、調べてみたが、決心できなかった
・原因不明の腰痛で苦しんだ作家・夏樹静子の闘病記『腰痛放浪記 椅子が怖い』(新潮文庫)を読み、「自分も同じ」と共感。同じような治療をしてくれそうな施設を探しまくり、千里山病院を見つけた

 とのことだった。

 続く診察で、理学療法士と作業療法士は、痛みがどれほど日常生活に影響しているかを、問診に加えて、実際に動いてもらいながら探った。女性は「痛み止めがなければ痛くて動けない」と訴えていたが、身体機能は本人の実感に反してかなり良好で、行動力は健常者以上だった。痛みの呪縛によってさまざまな趣味・娯楽をあきらめた代わりに、ドクターショッピングを繰り返してきた過程が浮き彫りになった。

 最後に診た臨床心理士は、女性が考えないようにしてきた家庭の問題を聞きだした。初対面ゆえ突っ込んだ話は聞かなかったが、慢性痛の根底には家族関係の心の闇が絡んでいるのではないかと疑った。