2000万人以上が苦しんでいる
日本は「慢性痛医療後進国」

 痛みには急性痛と慢性痛の2種類があり、原因も治療法も全く異なるのだが、困ったことに日本では、この基礎的な事実が浸透していない。

 簡単に説明するなら、急性痛はケガや疾患のようなはっきりとした原因があって生じる症状の1つであり、一方の慢性痛はケガや疾患が治った後や原因とおぼしき出来事が判然としない状態で、3カ月以上に渡って続く痛みを指す。

柴田医師と医療スタッフでミーテイング
柴田医師と医療スタッフでミーテイング Photo by H.K.

 日本人の実に2000万人以上が困っている痛みは後者の「慢性痛」にあたるが、日本の医学部教育では痛みについてきちんと教わる機会がないため、大多数の医師はケガや疾患に対する知識はあっても痛みそのものに対する知識はなく、正しく診断できる医師は極端に不足している。

 例えば、首や腰の痛みに対し、「脊柱管狭窄症」や「椎間板ヘルニア」などの診断がくだされ、毎年大勢の人が手術を受けているが、その大部分は慢性痛で痛みの原因はほかにある。手術はまったく不要なのにあえて身体を傷つけ、新しい痛みの原因を作り出しているだけなのだ。

 結果、「どこに行っても、どうやってもよくならない慢性痛」に苦しみ、

・ドクターショッピングを繰り返す
・気休め的な民間療法に大金を費やす
・「神の手」と呼ばれるようなドクターの不必要な手術を受けてますますこじらせる
・寝たきりになる

 などの悲劇が増産される。そのため専門家の間では、日本は世界有数の医療先進国であるはずなのに、痛み治療に関しては「20年遅れ」が定説となっている。信じがたいかもしれないが、この件は厚生労働省も問題視しており、2010年以来、「慢性の痛みに対する検討会」を設けるなどして、さまざまな改善策を講じているのだ。また、政治家の間でも超党派の議員らによる「慢性痛対策基本法(仮称)」設立への動きがある。

「慢性痛医療後進国」の日本に、1日も早く、正しい慢性痛医療が普及することを願う。

◎柴田政彦(しばた・まさひこ)
奈良学園大学保健医療学部教授、千里山病院集学的痛みセンター医師。1985年大阪大学医学部卒、1989年佐賀医科大学麻酔科助手、1993年大阪大学医学部麻酔科助手、2007年大阪大学大学院医学系研究科疼痛医学寄附講座教授、2018年 奈良学園大学保健医療学部教授