インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
独学で哲学を学びたいです。
社会人です。これから独学で哲学を学んでいきたいのですが、どこから取りかかればいいのかわからず途方に暮れています。希望としては、ひとまず全般的な基礎知識をしっかり身につけたいと思っています。
それから、大学時代に知った『理性の公的使用・私的使用』の定義づけに惹かれていて、カントの哲学について勉強してみたいという思いがあります。勝手がわからず曖昧で申し訳ないのですが、丁度よい本などがありましたらご教授願えませんでしょうか?
おすすめは、いきなり「ラスボス」に挑むこと
[読書猿の解答]
哲学は、共通する基盤の上に積み上げられた体系というより、互いに参照し合いながら各々が独自に基礎を掘り下げたり概念を創設したりする挑戦の集まりなので、「これをやっておけばつぶしがきく」という共通の基礎がありません。
そのため哲学には標準的といえる教科書がなく、代わりにいろんな哲学の見本市として哲学史を学んだりします。一般向け哲学入門の多くもこれを踏襲しています。
なのでお勧めは、この状況を逆手にとって、いきなりラスボスに挑むことです。幸いにして関心をお持ちのカントはラスボス中のラスボスなので、優秀なサポートもまた存在します。
最初の一冊はちくま新書の『カント入門』がよいでしょう。数多くの涙を呑んできた哲学学徒が「私にもカントが分かった!」と歓喜した逸品で、カントへの入門のみならず哲学の優れた入門にもなっています。
「理性の公的使用/私的使用」はカントの『啓蒙とは何か?』に登場します。短い上に心に残る名フレーズ満載で、カントを読むなら最初にお勧めしたい小品です。光文社文庫の新訳が読みやすいでしょう。訳者の中山氏もまた、カントの「自由」論を中心にしたカント入門『自由の哲学者カント』を書いています(『啓蒙とは何か?』の結論、そしては理性の公的使用の条件こそ自由に他なりません)。