イギリスからの翻訳書『Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめたワークハック大全』が本年9月に発売された。コロナ禍で働き方が見直される中で、有益なアドバイスが満載な1冊だ。著者のブルース・デイズリー氏は、Google、YouTube、Twitterなどで要職を歴任し、「メディアの中で最も才能のある人物の1人」とも称されている。本書は、ダニエル・ピンク、ジャック・ドーシーなど著名人からの絶賛もあって注目を集め、現在18ヵ国での刊行がすでに決定している世界的なベストセラーだ。イギリスでは、「マネジメント・ブック・オブ・ザ・イヤー 2020」の最終候補作にノミネートされるなど、内容面での評価も非常に高い。本連載では、そんな大注目の1冊のエッセンスをお伝えしていく。

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バズ(心理的安全性=高+ポジティブ感情)

 活気溢れる雰囲気の中で、自由に意見を言えるチームは最強だ。

 アイデアは次々に生まれ、チームの行く手を阻むものは何もないように見える。この心理的安全性ポジティブ感情の組みあわせこそが「バズ」の状態だ。

 もちろん、言うは易く行うは難し。率直に意見を述べることと、楽しい気分で働くことのバランスを保とうとするのは簡単ではなく、絶え間ない努力と細やかな注意が必要になる。

 バランスを崩せば、メリットはすぐに消える。とはいえ、だからといって、「バズ」は目標にする価値のないものでも、達成できないものでもない。

 ピクサーの社長エドウィン・キャットマルは、同社の歴史をテーマにした優れた回顧録の中で、この会社に初期から見られた熱気を保ちながら、上の立場の社員に直接的に意見を述べる(心理的安全性)ための、同社が編み出した効果的な方法について述べている。

 それは「ブレイントラスト」と呼ばれるレビュー会議の形をとる。

 キャットマルはその著書『Creativity,Inc.』(邦題『ピクサー流 創造するちから 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』、ダイヤモンド社)の中で、この会議の目的は、「聡明で熱意のある人を集め、率直な意見交換を通じて、解決すべき問題点を明らかにすること」だと述べている。

 ただし、そこにはとても明確なルールがある。それは率直さが誰かを傷つけるようなものになってはいけないということだ(実際、キャットマルによれば、それは”とてつもなく素晴らしい”ものになっている)。

 特に重視されているのが、プロジェクトの中心人物(やプロジェクトリーダー)の尊厳が損なわれないようにすることだ。

 完成前の作品の試写会(スケッチや編集段階の映像の場合もある)に招待されたピクサーのチームの面々は、問題だと感じた点を率直に指摘する。

 レビュー対象のストーリーボードやフィルムクリップに対して、誰でも意見ができる。ただし、「提案」はできない。

 「ブレイントラストでは、解決策ではなく根本的な問題を明らかにすることを目的にしている」。

 僕たちは職場であれ家庭であれ、つい問題解決モードに入ってしまい、目の前にいる人に「こうすればいいのに」と言ってしまう。

 しかし、ブレイントラストではそれを避ける。解決策は提案せず、ただ意見を述べるだけ。

 ピクサーはこのようにして、それぞれが率直に意見を口にしながら、ポジティブ感情が生じる活気に満ちた創造的な雰囲気を失わないようにしているのだ。

 ピクサーを買収したウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOボブ・アイガーは、ブレイントラストのアプローチをディズニーでも採用した(ディズニーでは「ストーリートラスト」と呼ばれている)。

 このプロセスによって、人々に愛されている同社の作品のいくつもの名シーンが誕生することになった。

 たとえば『アナと雪の女王』では、もともとエルサは、面倒くさい性格をした丸顔の山男クリストフに悩まされることなく、妹のアナと仲良く幸せに暮らしていくという設定だった。トラストを実施する前は、アナとエルサは姉妹でさえなかった。

 トラストは、おかしいと思ったことは率直に意見できるが、それをどう改良するかは制作チームの創造性に任される。

 簡単には口に出しにくい質問をすることが促される職場は、陰険な空気に包まれているわけではない。