社会脳と学習

木村:はい。「学校の成績と思いやりや共感力といったところにも矛盾やギャップを感じる」という質問をいただきました。

星先生、このあたりはどうお考えでしょうか。

星:ありがとうございます。まさに今、僕が教育分野で一番興味を持っているところです。

よく引き合いに出すのが、どんな勉強法がいいのかということです。

まずは静かなところで一人集中してできる環境をつくりましょう、といったら、普通ですよね。

ただ最近、それは見直すべき学習法だったことを示唆する脳科学的な基礎研究まで出てきました。

まず、『スタンフォード式生き抜く力』にも書きましたが、人の脳は他の人と一緒にうまくやっていけるようにできているんです。集団で生活することで、厳しい自然環境の中で生き延びていけるのです。

進化論的にも、動物はより大きなグループをつくれるほうが進化しやすいという研究もあります。

また、類人猿で見ると、よりグループが大きい類人猿のほうが脳が大きい。

人間も脳の比率が大きいのですが、進化の過程を生き抜いていくために、他の人と組み、社会性を持つために脳も大きくなってきたと考えられます。

さて、伝統的な教育法として、クラス単位の授業がります。もちろんおなじみですよね。

紀元前ぐらいから、ユダヤ教の伝統や習慣の中に、すでにクラスで授業を受ける教育法があったようです。

クラス単位での授業を脳科学的な視点から見ると面白いんです。

まず、授業で、テキストを読んだり問題を解いたりするときは、脳の「ワーキングメモリー」を使って論理的思考や情報処理を統括する部位を使います。

一方で、他の生徒とやりとりをするときには、「社会脳」を使います。自分や他人の気持ちを気持ちを想像する脳の部位です。

実は社会脳が働いているときは、ワーキングメモリーが働きにくい。ワーキングメモリーが働く際には逆に社会脳が働きにくいといった競合関係が報告されています。

これはすごい非常に興味深い発見です。

思春期は社会脳がどんどん発達する時期ですから、生徒も他の生徒と関わったりして社会脳が発達できるような社交の機会を欲する。

しかし、周りの生徒と一緒にいるにもかかわらず、問題を解いたりテキストを読んだりすることに集中して、ワーキングメモリーだけを活性化させるように促されてしまう。

つまり、クラス単位の教育で、せっかく社会脳を使う機会があるのに、ワーキングメモリーだけを使って、脳の半分しか使えていないのです。

最近の研究で、「社会的ワーキングメモリー」をつくることができることがわかってきました。社会脳を鍛えることで、社会脳にワーキングメモリーの機能を持たせることができるというのです。

学習現場の例でイメージするならば、生徒同士で教え合う「ピア・チュータリング」の効果がわかりやすいでしょう。生徒が今学習したことを他の生徒に教えたり、他の生徒に教えられたりする。これで実際に学力が上がることがわかっています。

しかも、教えられた人よりも、教えた人のほうが学力が上がる効果が高いことがわかっています。

つまり、みんなで学ぶと、独学よりも学習の効果が高い。最近では記憶力にも差が出てくることがわかりました。

社会脳を刺激し、社会的ワーキングメモリーを使うと記憶力がアップします。せっかく授業で他の生徒と一緒にいるのですから、なるべく社会脳を刺激できるような学習法を取り込んでいきたいところです。

社会性は大事だから学校では社会性を養おう! というのはきれいごとに聞こえてしまうかもしれません。

しかし、それだけではないのです。みんなとやりとりすることで頭もよくなるというのです!