ところが、「出勤」とは事業所に勤務することで、自宅は事業所ではないので、残る「出張」に無理やり当てはめたのではないか。「出張」とは、事業所以外で勤務することで、自宅は事業所ではない。それが、横並びで広がって、32都府県にまで広がったのではないかという“事情”は想像に難くない。

 メディアが問題提起し、愛知県は10月から在宅勤務の旅行雑費を支給しないと発表した。しかし私には、旅行雑費を支給しないことでこの問題が解決したとは思えない。

現行制度の読み替えにも意義がある

 職員の側から見れば、出勤抑制の指示を受けて在宅勤務をしている。在宅勤務をすれば、電話代や事務用品や光熱費など、自宅の設備や備品を使って業務をせざるを得ない状況になる。在宅勤務手当の支給が期待されるところだ。

 コロナに対して最大級の警戒がされていた緊急事態宣言下において、勤務規定に在宅勤務の区分はないからといって、「在宅勤務の区分がないから、在宅勤務をしてはならない」という人はいなかっただろう。これと同じで、在宅勤務手当の支給規定がないので、在宅勤務手当を支払わないとすれば、頭が固い。実態として在宅勤務で職員に負担がかかっているのであれば、手当を支払う必要がある。

 そこで、規定が作成され、承認され、施行されるまで、期間を要するのであれば、今ある制度の中で準用できるものがあれば適用すればよい。仮にそれが、在宅勤務を「出張」扱いすることならば、堂々と主張すればよい。

 在宅勤務を行うという緊急対応のために、在宅勤務制度が規定されるまでの当面の間、一時的に、現行の事業所外で勤務することを定めた「出張」という概念に、自宅での勤務も含めることとする。「出張」を「事業所外勤務」と読み替えて取り扱いしていく。旅行雑費は、出張先での業務にかかる雑費を支給する主旨なので、事業所外勤務である在宅勤務でも支払う。このような説明がされれば、違和感は格段に薄れるのではないだろうか。

 大事なことは、「制度がないからできない」「制度を構築中だから支給しない」という状況から、「制度がないが(制度は構築中だが)、現行制度の中で読み替えてすぐに実施できることはないか」と考えて行動することだ。

 その意味で、在宅勤務に出張手当を支払うという、一見トンデモない施策は、実に柔軟で、建設的な妙手だったといえるのだ。