そもそも開発途上国のみで流行していたら、こうは行かないはずだ。

 例えば、エボラウイルス感染症はアフリカ奥地で1970年代には見つかっていたが、ワクチンや治療薬の実現には40年かかっている。本格的にワクチンの開発が進んだのは、2014年頃のこと。アフリカ人口最大の都市であるナイジェリア・ボゴタが流行地となり、米国にも飛び火する恐れが出てきたためだ。

 こうした感染症は「Neglected tropical diseases」(顧みられない熱帯病)と呼ばれている。欧米社会にとって脅威でない病気は、ワクチンや薬の開発が進まない。大口の買い手が付かないからだ。毒蛇に対する治療は、いまだに血清に頼っている。

 以下、新型コロナワクチンを中心に、ワクチンの安全性と、米国と日本のワクチン産業の明暗について解説する。

打つべきか?
その「真価」は市販後にしか分からない

 日本はモデルナ社から来年1~6月中に2000万人分(契約は2500万人分)、ファイザー社から6月までに6000万人分、新型コロナワクチンの供給を受けることになっている。

 なんとか入手できそうだとなると、今度は安全性が気になってくるものだ。

 ワクチンの安全性は、承認されるまでに、3段階の臨床試験を経て確認される。ただ、第III相試験でも対象者は数万人でしかなく、実用化され発売されれば何千万、何億人に接種が行われる。なので、市販後調査(第Ⅳ相試験)こそ重要だ。臨床試験の規模では表れなかった未知の副作用が見つかることもある。

 米国では1976年、インフルエンザの予防接種キャンペーンが敷かれた結果、ギランバレー症候群(免疫異常による神経系の病気)が100万接種あたり10例の頻度で発生した。今回の新型コロナワクチンも、政府の積極的勧奨に際し、安全性について疑問視する声は少なくない。もちろん、拙速な開発や安全性試験の軽視は、厳に慎むべきだ。

 その点、冒頭の2社の新型コロナワクチンに関していえば、臨床試験は通常の手順を踏んで実施され、第III相試験終了後も2カ月間の観察期間を置くこととなっている。その後のワクチン製造も、「Good Manufacturing Practice」(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準、GMP)に則り、正しく製造される。

 GMPは、料理に例えれば、素材の産地や収穫時期から皮のむき方、加熱の温度・時間、調味料の量とタイミングまで、全工程を正確にレシピ化し、それに基づいて調理するようなものだ。であれば、臨床試験で観察されなかったような、極めて稀(まれ)な副反応が起きる確率は低い(※筆者注:かつて日本で起きたワクチン訴訟では、当局に申請したのと異なる製造過程で、副反応を多く起こし、問題視された例がある。ただし、GMPはあくまでも医薬品の製造工程上の品質基準なので、医薬品自体に問題があれば、副反応は避けられないが…)。

 以上を踏まえ、ワクチンの接種は多岐にわたるリスクを比較考量して判断するしかない。例えば、下記のようなリスクだ。

 ◎ワクチンの安全性が最終的に確認される数年後まで待つ間に感染するリスク
 ◎ワクチンの未知の副反応リスク
 ◎社会全体の接種率が上がらない場合に、感染症がコントロールできず、経済活動が低迷するリスク
 ◎その場合、自粛生活や経済悪化から、ストレス、運動不足などが蓄積し、健康を害するリスク

 厳密にはモデルナ社とファイザー社、両ワクチンの正式な審査結果を待たねばならないが、伝え聞く情報から判断するならば、あくまでも「現時点」では、両社のワクチンは安全性には大きな問題がないようにみえる。世界的な流行状況と、このところの国内感染拡大を考えれば、「接種の忌避」は賢明とは思えない。