「国家予算のムダ」にメスを入れた「事業仕分け」

 2009年9月に政権交代で民主党の鳩山政権が誕生した直後、世界初の「国家予算にメスを入れる事業仕分け」を実施したことは驚きだった。「事業仕分け」を導入した鳩山内閣の危機意識は当然としても、そこへ切り込んだ構想日本代表・加藤秀樹(1950年生まれ)の構想力とリーダーシップには感服した。

 非営利独立の政策シンクタンク「構想日本」(1997年設立)は長らく地方自治体中心に「行政の事業仕分け」を重ねてきたが、いきなり加藤自ら内閣府の行政刷新会議事務局長として、「国家予算のムダ」にメスを入れる「事業仕分け」の総元締めになるとは想像できなかった。

 トヨタ生産方式が「組織に潜むあらゆるムダ」を浮き彫りにするように、「事業仕分け」は国会議員および外部専門家が「仕分け人」となって「国家のムダ」を浮き彫りにする。

 その一部始終がインターネットで放映されたのだから効果はてきめん。他にもメリットは多いが、何よりも政局に奔り政策を疎かにする政治屋連中を少しでも政治家へ向かわせる有力な教育現場となったことは大きな収穫である。政治家を生み育てる「事業仕分け」である。

大野耐一に通じる加藤秀樹の透視力

「事業仕分け」の現場を取材しながら、会場を静かにゆっくり歩き回る加藤秀樹の姿を見守り、在りし日の大野耐一を想起した。「現場主義」に徹する二人である。「トヨタ生産方式」を構想し構築した大野が、「徹底的なムダの排除」を通じて目指したものは、「ムダの排除による現場の構造改革」だった。「利益を生み出す構造」へ変革し、石油ショック後の景気回復を存分に享受した。

「事業仕分け」の現場を動き回る加藤秀樹の姿が、常に次のステップを考えチャンスを窺う様子に見えた。自由に歩き回り、時にはカメラを携えて生産現場の問題点を探る悠揚迫らぬ大野耐一の姿にダブって見えた。

 行政刷新会議の事務局長である加藤の仕分けテーマは確実に次元を高めて、国家戦略の実体を形成しつつある。トヨタ生産方式が時間を超え、国境を超えて進化を続けるように、加藤が開発し普及に努める「事業仕分け」も日本を超えてグローバルな展開を見せるだろう。すでにインドネシア、オーストラリアが研究を開始。アジアからEU、アメリカへ、その有効性を日本から発信しよう。

 国民の信頼を失った民主党政権の「事業仕分け」への意欲は衰えたように見えるが、加藤秀樹に言わせると、国家予算のチェック機能として制度にビルトイン(組み込まれた)されたという。頼もしい答えだ。「事業仕分け」は、永続してこそ効果の上がる方法である。