ヤフーの事例を含めて、こうした実践をそっくり真似する必要はありません。それぞれの企業文化と、組織のありように合わせて、最適なやり方を決めていく、その参考にして頂ければと思います。

どういう言葉、もしくは対話が部下のやる気を高め
ひいては組織の強さにつながっていくのか

 私たちが考える1on1の原則は、シンプルです。1on1は、部下のための時間、だということです。

・目の前の部下のやる気にフォーカスする。
・そのために、部下のことを知る。
・大前提として、自分の部下に関心を持つ。

 そこで、『1on1ミーティング』には、『「対話の質」が組織の強さを決める』というサブタイトルをつけました。

 かつて、高度経済成長の頃は、「いいからやれ!」というような上意下達、一方的なコミュニケーションで十分に仕事は回りましたし、組織は業績を上げられたかもしれません。しかし、とうに時代は変わりました。今は、誰も正解がわからない時代。経験豊かな上司が、必ずしも今の課題に最適解を示せるわけではないでしょう。

 だからこそ、以前にも増して、組織の中にコミュニケーションが必要ですし、その前提として信頼関係が欠かせません。信頼関係を醸成するには、互いに相手の話をちゃんと聞くことが必要であり、上司部下の間ではなおさらです。業種を問わず、イノベーションは少数の天才が生み出すものではなく、普通の私たちがお互いに言葉を重ねあう、時間をかけた真剣な関わりの中でしか生まれないのではないでしょうか。

 その重ねあう言葉にも、やる気を引き出す言葉と、そうではない言葉があると思います。そのことを本書では「対話の質」と呼びます。

 カネやモノと違って、他者の働きかけによって、即座に2倍にも3倍にもなりうるのがヒトのやる気です。そして、その逆もしかり。では、どういう言葉が、対話が、部下のやる気を高め、ひいては組織の強さにつながっていくのか。

『1on1ミーティング』では、そのことをめぐって実際の対話例や、企業の事例や、専門家の知見など、さまざまな角度から探究を試みます。

 本書をお読みいただき、みなさまならではの「対話の質」について、考えてみていただければと思います。

著者略歴
本間浩輔(ほんま・こうすけ)
Zホールディングス株式会社 常務執行役員
立教大学大学院 経営学専攻 リーダーシップ開発コース 客員教授
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 兼任講師
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。コンサルタントを経て、後にヤフーに買収されることになるスポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)の創業に参画。2002年に同社がヤフー傘下入りした後は、ヤフースポーツのプロデューサー等を担当。2014年執行役員、上級執行役員(人事)、常務執行役員(コーポレート統括)を経て、2019年より現職。著書に『ヤフーの1on1』(ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著。光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。

吉澤幸太(よしざわ・こうた)
ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント統括本部 ビジネスパートナーPD本部
2005年にサービス企画職としてヤフーに入社。主にメディアサービスのプロデューサーとして提携事業やコンテンツ調達の仕事に携わる。2012年の経営体制刷新に伴い人事部門へ異動。新人事制度に即した組織開発と人材育成を推進する中で、特に1on1ミーティングの導入と浸透の推進役を担う。現在は部門担当人事として、特に管理職育成や全社横断的な勉強会などの企画運営に注力。また、ダイヤモンド社をはじめ社外での講師経験も多数。主に1on1ミーティングを活用した組織・人材開発を通じ、さまざまなビジネスシーンへのサポート活動を実践している。