演出ゼロ、本物の魅力で奇跡を
番組制作が始まると、僕も制作メンバーに加わりました。
「彼女は片づけの天才ですが、演技の達人ではありません。気の利いたセリフまがいの会話は求めないでほしい。でも片づけに集中することができれば、彼女は片づけ実践者の人生を劇的に変えることができます。想像を超えた奇跡が生まれることを約束します」。おぼつかない英語で、そう熱弁したのです。
麻理恵さんが麻理恵さんらしい価値を発揮することこそ、番組の成功に欠かせない。
そう信じているから制作チームの一員として、演出の主導権を持たせてもらったのです。
制作現場ではスタッフの人選にもこだわりました。
音響や照明、編集といったスタッフを集める際には、技術や経験だけでなく、「こんまりメソッドを世界に伝えたいと心から思っているか」という部分も重視して選ぶ必要がある。もし、ここが抜け落ちていたら、麻理恵さんを輝かせることはできませんから。
片づけを通して人生が前向きに変わっていく。そのプロセスを伝えることにどんな価値を見いだし、自分の技術でそれをどう最大化しようと考えているのか。
スタッフ一人ひとりに強い思いがあれば、番組で表現されるものも違ってくるはずです。実際、こうして集まった番組制作メンバーは、みなさん本当に素晴らしいプロフェッショナルばかりでした。
「音の拾い方」「照明の当て方」「カメラフレームの決め方」など、それぞれのスタッフが持ち場で、麻理恵さんを最高に輝かせる仕事をしてくれました(実際に番組を視聴いただけると、きっとその愛を画面の端々から感じてもらえるはずです)。
麻理恵さんが訪問する体験者(クライアント)の人選にも深く関わりました。
送られてくる応募ビデオにすべて目を通し、「子育て中の若い夫婦」「リタイアした老夫婦」「夫に先立たれた一人暮らしの女性」など、体験者の属性や年齢、ライフステージ、抱える問題が重ならないよう配慮し、こんまりメソッドがいかに幅広い人の問題解決につながるかを伝えようとしました。
番組に筋書きはありません。実在する生活者が、自分の持ち物を見つめ直して人生に向き合い、ときめくものだけを残して大切にする暮らしへシフトする。
本来のその人らしい人生を取り戻すプロセスに、麻理恵さんは全身全霊を注いで寄り添いました。