強いブランドに合わせた
システムの開発が必要に

 1990年代から継続的にブランディングを強化してきた星野リゾート。「ブランドが強くなったなら、強いブランドに合わせたシステムが必要になります」と久本氏はいう。プロジェクト推進を担当するプロダクトオーナーチームリーダーの佐藤さやか氏も「リゾートの顔となるシステムに汎用タイプのものを使おうとするのは難しい」と続ける。

「自分たちのやりたいマーケティングに沿ったシステムを探しても、世の中には汎用タイプのものしかなかったので、自分たちで用意するしかありません。そしてそのシステムが成長したからマーケティングも成長できたと考えています」(佐藤氏)

 久本氏によれば、星野リゾート代表の星野佳路氏は最初から首尾一貫して、ブランド、プロダクトを強くして、そこで牽引していこうということを意識していたそうだ。ただマーケティングの現場としては、どうしてもコモディティ化した販売手法にも対応する必要があった。

「つまり最終的に目指しているところと現実的にやらなければいけないことのギャップが大きかったのですが、そこを両方できるような仕組みは世の中にはありません。コモディティ化した売り方だけをやろうと思ったなら、世の中にある仕組みを取り入れれば良かったのかもしれません。でも、ブランド、プロダクトでの集客を目指し、システムもそちらへ合わせることで、実態も合ってきました。藤井が言ったような独自の販売の仕組みも乗せやすくなっています」(久本氏)

 星野グループのブランド、プロダクトに合わせて、さまざまなシステムを生み出してきた情報システムグループ。だが、経営側の期待はグループ立ち上げ初期の混乱(前編参照)直後の2013年までは低かった。

「『最低限これをやってくれればいいから』と言われるところまで期待値が落ちていました。そこへ『あれもこれもやりたい』と情シスからは提案していたのですが、経営陣の心理的抵抗感は強く『まずはスケジュール通り、予算通りに開発しよう』と反対されました」(久本氏)

「これは口で言っただけでは難しい」と考えた久本氏らは「行動と結果で示すしかない」と考え、納期・予算を守ること、生み出したシステムできちんと成果に貢献することで、「少しずつ挽回していった」(久本氏)という。