今、最も注目を集める急成長企業ワークマンは、「しない会社」だ。
◎社員のストレスになることはしない
◎ワークマンらしくないことはしない
◎価値を生まない無駄なことはしない
とりわけ「頑張ること」はしないどころか、禁止! それでも業績は、10期連続最高益を更新中だ。
なぜ、コロナ禍でも業績が伸び続けているのか。
なぜ、自分の頭で考える社員が急増しているのか。
なぜ、いま「しない経営」が最強なのか。
このたびワークマン急成長の仕掛け人である土屋哲雄専務が、Amazonに負けない戦略を初めて語った初の著書『ワークマン式「しない経営」』が発売たちまち3刷となった。
昨日の日経新聞にも、競争戦略の第一人者で一橋大学ビジネススクールの楠木建教授が「ワークマンの戦略は“世紀の傑作”。これほど、しびれる戦略はない」とコメントを寄せた。
今回、ワークマンの土屋哲雄専務と早稲田大学大学院・ビジネススクールの入山章栄教授が初めて本書で対談。両者は何を語ったのだろうか。
イノベーションに不可欠な
「センスメイキング理論」とは
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でおもに自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書にベストセラーとなっている『世界標準の経営理論』などがある。土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。「だから、この本。」でも5回のインタビューが掲載された。
土屋哲雄(以下、土屋) ワークマンでの8年間の変革を振り返ったとき、私がやってきたことと『世界標準の経営理論』の「センスメイキング理論……『未来はつくり出せる』は、けっして妄信ではない」に書かれていたことに共通点が多く、自信になりました。
CIOは「企業の将来を考える役員」なので、社員と夢を共有し、みんなを励まし、実際にワークマンプラスという形にする経験をしました。
入山章栄(以下、入山) 「センスメイキン(sensemaking)」とは日本語に訳すと「意味づけ・納得」という意味で、さらに平たく言えば「腹落ち」ということになります。「センスメイキング理論」とは「腹落ちの理論」なのです。
組織のメンバーやステークホルダーを納得させ、いま何が起きていて、自分たちが何者で、どこに向かっているかという「意味づけ」を集約させる。センスメイキングは、イノベーションを起こすうえで欠かせない条件であり、変化が激しく不確実性の高い現代のリーダーシップで特に重要です。
土屋 社員と面談を重ねて「やりたいこと」をヒアリングしました。そして、できるだけそれに沿うように新業態の方向づけをしたつもりです。
入山 社員を大切にしながら標準化を進め、しくみをつくられていますよね。大胆に言うと、人が入れ替わっても簡単には崩れない堅けん牢ろうな組織になっています。
スタープレーヤーを不要にする
「凡人による凡人の経営」
土屋 凡人による凡人の経営をしないと、100年の競争優位は築けないと思っています。
入山 それはグローバル企業の考え方です。個人的な意見では、日本企業でこれができているのは、ファーストリテイリングぐらいかもしれない、と思っています。ファーストリテイリングは人が入れ替わってもうまく回るでしょう。ワークマンとは全然違うアプローチですが、しくみにするという点では、日本中のどの会社より徹底されているかもしれない。
土屋 うちの場合、トップダウンではなくボトムアップです。役員より社員のほうが重要です。私が入社したとき、役員は6人いましたが、いまは3人です。その代わり社員全員が経営に参画するしくみをつくりました。エクセルを使って草の根で意思決定します。それが強みです。その社員も一人ひとりが突出しなくていい。突出しすぎた人の仕事は、引き継ぎができませんから。
入山 まさに普通の人による普通の経営ですね。「余人をもって代えがたし」ではいけない。
土屋 余人をもって代えられる。突出した人はいらない。頑張ることは会社にとって望ましくない。
入山 会社にとって望ましくない(笑)。
土屋 スタープレーヤーやデータサイエンティストはいりません。普通の社員に興味を持ってもらいながら楽しく仕事をしてもらうことが大切です。それには報酬も大切。
私が入社したときの社員の平均年収は500万円台でしたが、現在は700万円台にまで上がりました。
今後は1000万円に近づけていきます。それまでは役員を増やさない、役員報酬を上げないと決めています。
入山 本当ですか。
土屋 昔は経営者と社員の給与格差がいま以上にありました。それをどんどん縮めています。そもそも役員が社員の数倍も働けるわけがないのです。社員はエクセルを活用しながら、いろいろなアイデアを出します。役員以上に会社に貢献している社員は多い。だから、社員が大切というメッセージを伝えるには「報酬アップ」の実行が大事です。社員に仕事に興味を持ってもらいながら、100年の競争優位を築こうと思っています。
【土屋より】
ps.「だから、この本。」に私の全5回インタビュー連載がありますが、特に下記の記事が好評だったのであわせてお読みいただけたら嬉しいです。
「だから、この本。」【第1回】“人生一発逆転の新・知的生産術” ワークマン式 朝2時30分起きの仕事術
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。 著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)がある。
Photo by Aiko Suzuki
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。