良識をまっとうしたい男性
価値観の変遷に疲弊する
もう少し平均的と思われる自粛意識の持ち主のケースを見てみよう。Cさん(36歳男性)は良識を守る社会の一員であろうとする意欲が強く、第1波時はかなり厳密な自粛態勢を敷いていた。それから徐々に自粛度を緩めて外出するようになり、「Go Toトラベル」を利用した旅行の計画まで立てていたが、第3波の今、自粛態勢を引き締めなおす必要性を感じている。ひとまず旅行の計画は白紙に戻された。
「自身が感染するかもしれない恐怖はもちろんあるが、感染することによって家族など周囲の人に迷惑をかけてしまうかもしれない懸念の方が大きい。世間で常識的とされている自粛をしていて感染してしまうのは『仕方ない。運が悪かった』と思えるかもしれないが、常識から逸脱した生活を送ることで感染してしまったらきっと自分を許せないと思う。
そうしたことを考えながら、同時に自粛に関する“世間の良識”についてアンテナを立てて探りながら、これまで自粛してきた。
第1波の頃は自粛に対する使命感が強かった。第2波では『こんなに緩めても平気なの?』と疑問に感じつつ周りに合わせた。自粛しているだけだと経済も回らないだろうから、外出することでそこに加担したいという思いが強かった、というのもある。
今は、正直“世間の良識”を探ることに疲れてきている。第1波からこれまで“世間の良識”に翻弄され、第3波ではさらに多様な意見を耳にする(筆者注:危機感をいやが上にも募らせる第3波を迎えた現在ではあるが、第2波あたりで出てきた少しゆったりした空気感も残存している)。何が正解で、どこに寄り添えばいいかすっかりわからなくなってしまった」(Cさん)
強い使命感ゆえ自粛意識の迷路に陥ってしまっているCさんだが、Dさん(35歳女性)はそこから一歩進めた考えだ。思考の筋道はおおむねCさんと一緒だが、もう少しシンプルである。
「自粛意識って結局、個人の感覚と世間の価値観が合わさってできていると思う。対コロナで慣れないところから始まって、少しずつ慣れていった。けれど、『Go To』が始まったり取りやめになったり、世の中の情勢は目まぐるしく、それに合わせて世間の価値観も変わっていく。つられて自粛意識も変化する。で、その変化を真剣に見つめることがばからしく思えてきてしまった。何しろどんどん変わるので、まともに向き合っていたら身がもたない」(Dさん)
ここまでは、Cさんと同様である。