「聞く耳」を「聴く耳」にする

 もうすでにお気づきかもしれないが、私は「聴く」と「聞く」を区別して用いている。私の恩師である臨床心理学者・佐治守夫先生は、「聴く」と「聞く」を区別し、カウンセリングにおける「聴く」姿勢の大切さを説いておられた。それは、カウンセリングに限らず、ビジネスにも通じることである。

「聞く耳」の「聞く」は、声が聞こえる、音が聞こえる、というような使われ方をする。そこには、自然に聞こえてくるといったニュアンスがある。騒音が聞こえる、隣の家の物音が聞こえるというときも、この「聞」という字を使うが、その場合は嫌でも聞こえてしまう音のことである。

 このように、「聞く」というのは、受け身の姿勢をあらわしている。ゆえに、「聞く耳」とは、周囲の声や物音を聞くように、人の話もただ受け身で聞いている耳のことを指す。典型的なのが、上の空の聞き方だ。そこまでではなく、相手の話を聞いているつもりでも、気合を入れて聞いていない。ゆえに、「音としては」聞いていても、「興味ある話としては」聞いていないのである。当然のことながら、相手の思いを十分にくみ取ることはできない。

 一方、「聴く耳」の「聴く」は、音楽を聴く、講演を聴く、というような使われ方をする。そこには、意識を集中して聴くといったニュアンスがある。聴診器の「聴」、聴衆の「聴」も、この漢字を使うが、その場合は自然に聞こえてくる音のことではない。

 このように、「聴く」というのは、能動的な姿勢をあらわしている。ゆえに、「聴く耳」とは、相手の言葉に込められた気持ちまでくみ取ろうとして、相手の言うことに集中している耳のことを指す。