「振り袖業者の立場から考えると、一斉に振り袖のキャンセルが入って返金を求められれば、膨大なキャッシュが一気に出ていくことになります。そうなると体力的にもたず、最悪倒産する事態にもなりかねません。また、業社から振り袖をレンタルした顧客は、その際に『振り袖の記念写真、通称前撮りが終わったら返金はできません』あるいは『成人式がなくなったとしても返金しません』という規約にサインしているはずです」

 2020年3月にコロナの影響で卒業式が中止になり、多くの女性がはかまを着られない事態となったときも、振り袖業者の多くは同じように「卒業式が中止でも返金できない」という対応をした。

「卒業はかまのときも、返金されずに泣き寝入りを強いられた方も多いと聞きます。そもそもコロナ禍以前から返金の対応について不満を漏らす人が多くいたのは確かです」

 加えて中西氏は「前撮りが終わったら返金はできません」という規約自体の危うさも指摘する。

「大半の顧客は成人式当日に着るために振り袖を契約しています。したがって、成人式という役務を達成していないのに前撮りが終わったら返金ができないのは、消費者目線で果たして正解といえるのでしょうか? 振り袖業者の損失を顧客が補填する形になってしまいます。それに納得できない顧客が増えているのであれば、その契約は見直す必要があると考えています」

 一部の自治体では、そうした振り袖業者の損失を補填しようという動きもある。だが、「コロナ禍で飲食店や販売など軒並み大赤字の中で振り袖業界だけが特別扱いされるとは考えにくい」と中西氏は言及する。

成人式の中止は
政治家にとっても損失

 そもそも今回の「成人式中止」で損害を被る成人式市場とはどんなものがあるのだろう。宴会や成人が故郷の自治体に帰る交通費など、いろいろなジャンルがあるが、特に損失が大きいと予想される振り袖市場についてのみ中西氏にざっと計算してもらった。

「今年成人になる125万5000人の内、女性は61万人います。おそらくさほど変動はないと思うので、他のデータは矢野経済研究所『着物産業白書 2019年版』を参照して計算したところ、振り袖の市場規模は約1000億円以上と推測されます」

 日本のGDP約550兆円の中では本当に小さな産業だ。しかし、成人式が中止になった場合、振り袖をキャンセルにする人がおよそ30万人いたとして、それをぜんぶ返金対応したとしたら、約450億円の損失となる。

 他にも、成人式中止によって損失を被るのは振り袖業者や顧客だけではないと中西氏は指摘する。

「成人式の中止は政治家たちにとっても痛手です。彼らにとって成人式は大事な舞台ですから。熊本・阿蘇市長の佐藤義興氏の成人式パフォーマンスが特に有名ですね。毎年その年の流行歌を熱唱して、いわば成人式の風物詩のようにニュースで取り上げられています」