米国社会の分断を
鮮明化させた要因

 連邦議会議事堂に暴徒などが乱入した背景には、米国が抱えてきた複数の要因が絡んでいる。

 経済のグローバル化によって、米国における貧富の差は拡大傾向をたどった。2000年代に入りグローバル化が加速する中で、中国は「世界の工場」としての地位を確立した。米国企業は新興国の安価な労働力を活用して生産コストを抑え、ソフトウエアやIT機器の設計・開発に注力した。それがIT先端分野を中心とする米国経済の成長を支えた。

 しかしその裏側で、米国の民主主義を支えてきた中間層は、一握りの富裕層と多数の低所得層に振り分けられ、「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の白人労働者を中心に雇用が失われた。

 人種間差別問題も深刻だ。2020年5月に白人警察官によるアフリカ系アメリカ人男性の暴行死事件が発生し、抗議活動(BLM運動)が激化した。

 それは、米国の人種差別問題の根深さを世界が改めて認識する機会となった。その後、2020年10月にピューリサーチセンターが発表した世論調査の結果では、「人種間の平等に向けた社会全体での取り組みが不十分だ」と回答した黒人およびヒスパニック系米国人が増えた。

 人種差別問題は教育や雇用面での格差拡大の一因にもなり、民間の医療保険に入ることが難しい、黒人やヒスパニック、アジア系、先住民の新型コロナウイルスの感染状況は深刻だ。それに加えて、「9.11」以降に本格化したテロとの戦いは、信条面での対立心理をもかき立てた。

 経済格差、人種差別、信条面の対立をはじめとする要素が折り重なる状況下、ある意味、トランプ氏は人々の不安をかき立てることによって大統領に当選したといえる。

 大統領就任以降、トランプ氏はラストベルトの白人労働者やキリスト教福音派などの支持を狙った政策を進めた。

 トランプ氏は、人種差別問題に対して毅然とした姿勢をとらず、そのような政策姿勢は米国世論の一部から岩盤のような支持を得た。そう考えると、今回の議事堂の一時占拠は、米国世論の一部が持つ既存の政治家(エスタブリッシュメント)への不信感がいかに強く、世論の分断が深刻であるかを確認する重要な機会だった。米国の民主主義は正念場を迎えたと言っても過言ではない。

皮肉にも経済格差を勢いづけた
FRBの金融緩和

 経済の側面から米国の分断を考えた時、完全雇用と金融システムの安定を責務(マンデート)とするFRBの金融政策が、経済格差の一因になっていることは冷静に考えなければならない。

 昨年春先、コロナショックによって世界経済は大混乱に陥った。米国では株式だけでなく、「低格付け社債」の価格が急落し、信用リスクが高まった。また、新興国の金融市場では、ドル建て債務がデフォルト(債務不履行)に陥るとの懸念が高まり、資金が急速に海外に流出した。昨年3月中旬にかけて、FRBは金融緩和策を強化し、各国にドル資金を供給。その結果、混乱は短期間で落ち着き、世界的な「カネ余り(過剰流動性)」が出現した。

 その一方で、世界各国が感染対策として人の移動を制限した結果、テレワークなど世界経済のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が進んだ。カネ余りとDXへの強い成長期待に支えられて2020年3月中旬を底に米国の株価は反発し、2020年に米ナスダック総合指数は約44%上昇した。

 他方、コロナショックの発生によって米国の失業者は増えている。昨年12月の失業率を人種別に見ると、黒人およびアフリカ系米国人の失業率は9.9%と、白人の6.0%および全米失業率の6.7%よりも高い。

 また、株価の上昇によって富裕層の富は増大し、低所得者層はより厳しい状況を迎えている。つまり、FRBの金融緩和策は実体経済よりも金融市場に資金を流入させ、経済格差の拡大を勢いづける一因になっている。