アダストリアの事業拡大に
KF健保は対応できず

 アダストリアは1950年代に創業し、90年代から、現在のビジネスモデルとなるストアブランドを展開し拡大。従業員数が700人を超えた2000年初頭に、協会けんぽからアパレル卸売業らが設立した総合型健保であるKF健保に編入した。

 アダストリアはその後、急成長を遂げている。店舗数を見ると、00年頃は100店舗程度だったが、10年頃には600店舗、13年にはグループ店舗数が1000店舗を超えた。しかし、KF健保はアダストリアの拡大する業容をカバーできなくなっていった。

 業界関係者は次のように打ち明ける。

「例えば、KF健保加入者は、KF健保の契約診療機関で定期健診を無料で受けられるが、その医療機関が全国を網羅できていない。店舗がある都道府県にないとか、あったとしても、県庁所在地に集中していて、多くのアパレル店が入っているイオンなどがある地域から通いづらい。地方は契約医療機関の数が少ないから予約を取りづらい。これらの理由から、健康診断の受診率は労働安全衛生法で100%とすることが義務付けられているのに、アパレル小売業界では、定期健診の受診率が半分を割る企業も少なくない」

ピント外れのサービスに
高まる加入者の不満

 また、保険給付の内容も薄いと指摘されている。例えば最大の総合型健保である関東ITソフトウェア健保では、加入者が出産した際の「出産育児一時金付加金」は9万円支給されるのに対し、女性の加入者が圧倒的に多いKF健保ではわずか2万円。

 ピントの外れたサービスも不満を呼んでいる。KF健保では健康増進事業として野球大会やハイキングなどのイベントを開催しているが、繁忙日に開催され、ただでさえ、立ち仕事で疲れているアパレル店員が参加するとはとても思えない。

 これらは主に関東で開催されるため地方在住者は参加できない。KF健保では、大宮の運動場を割安で利用できたり、体育助成金を受けられるようだが、いまだにウェブを通じたサービスの利用はできず、いちいち会社を経由して健保に申請書を提出しなければならないという。