機能性ウェアの製造販売というドメインで
ピボットを繰り返す

土屋:軸足はずっと作業服に置いたままなので同じパターンなのです。そのうえでアウトドアウェアに一歩踏み出す、あるいは女性向けに一歩踏み出すというピボット型です。

作業服がメインですが市場が飽和するので、作業服と一般向けアウトドアウェアに進出し、次は一般向けアウトドアウェアと女性向けに進出するという考え方です。

内田:作業服専門だったワークマンが、アウトドアウェアに進出するのは、今までとは違うことをやるわけです。それにはトップのリーダーシップが必要で、土屋さんだからできたのではないか。そういうことが今後ミドルマネジャーから提案されるのか、会社としてうまく意思決定できるのかが、「ポスト土屋」で気になるところです。

土屋:実はWORKMAN Plusという企画の種は社員の声を集めてできたものです。

新業態の企画を考えているときに社員にヒアリングすると、

「作業服以外をやってみたい」
「独自のPB製品をつくりたい」
「アパレル側に行きたい」
「アウトドアウェアに行きたい」

という声を聞きました。おそらく社員同士の懇親会などで「この会社は将来どうなるのか」と話していたのでしょう。そのとき、誰かが話した提案やアイデアが少しずつ共有されていったのでしょう。そうした社内の声を聞きながら、自社ドメインの定義を、作業服の製造販売から機能性ウェアの製造販売に変えたのです。

内田:データや社員の肌感覚に基づき、みんながオープンにディスカッションする風土があるので、今後もそんなに心配していないということですか。

土屋:はい。機能性ウェアの製造販売というドメインでピボットを考えるわけです。

すでに社員からワークマンシューズ、ワークマンレインなどの企画もあがっており、同じやり方で500億~1000億円の市場をとることができます。つけ加えるとオペレーションの標準化のスピードも上がっています。

WORKMAN Plusは、この2年半で270店舗をつくりましたが、標準化は2年でできました。ワークマンのマニュアル化、標準化は10年ぐらいかけて行ってきましたから、オペレーション力が上がっています。

#ワークマン女子を今後10年で400店舗つくるのですが、私はまったく関与していません。#ワークマン女子については、たぶん1年でできると思います。社員に余計なストレスをかけたくないので、そうは言わないのですけれど。

内田:WORKMAN Plusと#ワークマン女子の標準化に関する仮説検証は、ミドルマネージャーがやったのですか。

土屋:部長クラスがリーダーシップを持ってWORKMAN Plus、#ワークマン女子の仮説・実行・検証のデータを見ながら、マニュアル化、標準化を行いました。

内田:標準化のスピードが速くなっているのは、エクセル経営による組織学習の効果ですね。

土屋:おっしゃるとおりです。仮説・実行・検証の量に比例して、スピードアップしています。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。