今後のワークマンの
論点とは?

土屋:今後のワークマンの論点も考えています。突拍子もないことをするのではなく40年間やってきたワークマン、2年半やってきたWORKMAN Plusの延長線上にあると思います。ここを変えれば変えるほど弱くなる。内田先生がおっしゃる「オペレーションの4つのカギ」で価値観を統一し、シンプルに徹底し、組織学習で補って軌道修正する。この4つに尽きるのではないかという気がしています。

内田:何か戦略的にやることを考えるのではなく、「どうしたら現在の仕組みを持続できるか」「現在の仕組みをしっかり根づかせるにはどうしたらいいか」というのが今後のワークマンの論点ではないでしょうか。

土屋:はい、おっしゃるとおりです。

内田:ワークマンの成長、WORKMAN Plusの成功は、土屋さん個人の能力とリーダーシップに支えられたところが大きいと思います。外部には「土屋さんがいなくなって大丈夫なのか」という声も当然あると思います。だからといって土屋さんが長く頑張るのではなく、土屋さんが考えたことを社員一人ひとりが考えられる、ワークマン流の考え方、仕事の進め方、新しいマーケットの見つけ方が組織に根づくかどうかを考えていくことが大切でしょう。

土屋:まさにそのとおりかと思います。「客層拡大」という大きな論点に向かう際に、「エクセル経営」と「しない経営」という2つの論点を考えました。

全員参加のエクセル経営で会社の舵取りをしながら、「しない経営」で社員のストレスになることはしない、ワークマンらしくないことはしない、価値を生まない無駄なことはしないを徹底します。

ワークマン流の考え方、仕事の進め方、新しいマーケットの見つけ方などは、少しずつ社員に理解されていると思うのですが、あれもこれもやってしまうのが一番のリスクだと思っています。WORKMAN Plusをやり、#ワークマン女子をやり、そのうえでシューズもレインもやる。これが一番いけないのではないか。ある程度集中して、余計なことをしないことが大事だと思います。

内田:論点を見つけるには、「本当にそれが論点か」と常に疑問をもつことです。「これが問題だ」という人の話を聞いて「なるほど」と思ってもそこで考えを止めないで、「なるほど…でも、なぜなのか」と、「なぜ」を繰り返します。経験を積むことでダメな論点を早めに消していけるようになれば、かなりラクに正しい論点にたどり着けるようになります。論点に向かい合うときは、どれを解くと問題が解決するか、減少するかという視点が必要です。

土屋:そうした考え方が全社員に根づくとよいと思います。

内田:ビジネスパーソンは、論点の設定という上流工程にかかわる機会は少ないのですが、日頃から「本当の課題は何か」、とことん考える姿勢で経験を積む必要があります。

この姿勢があるかどうかで、ものの見方・考え方が変わってきます。解決策の立案や実行が障害にぶつかったとしても、より上流のより大きな論点に立ち戻って考えることで、より創造的な解決策を発見できることも多いのです。

多くの人々は、作業をやっていると、仕事をやっているように勘違いしてしまいます。私もそうです。しかし、日々の作業に追われて仕事をやっている気になっていると、いつまでたっても問題発見できるようにはなれません。ぜひ、多くの人に高い視点を持っていただきたいと思います。

内田和成

早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。