日本から新興国に
重心を移さなければならない

── GEでのイノベーションを通じて獲得した最大の発見は何ですか。

 GEでの2年間はまさに、驚異的でした。その間私は、ヘルスケア事業とエネルギー事業にかかわりましたが、その過程で次のようなことに気づきました。

1.裕福な顧客用につくられた製品を、貧しい国で売ることはできないということ。

2.新興国ではビジネスモデルも革新しなければならないということ。

3.そのビジネスモデルは貧しい国から、他の貧しい国へ、さらに豊かな国にも展開可能なものであること。

4.以上のことを実現するには、組織とマインドセット(考え方)を変える必要があるということです。財務上の課題ではなく、それらが妨げになっているのです。正しい組織を持たなければなりません。これは多国籍企業にとって重要なことです。

 リバース・イノベーションに取り組むうえでは、これらが鍵となります。これが、私がGEで働いた2年間から得た洞察です。

── 先進国で実行されてきたビジネスモデルは将来通用しない、あるいは今でも通用していない、とすれば、一から始めるしかありませんね。

 その通りです。貧しい国にも裕福な人はいるので、豊かな国から持ってきたビジネスモデルを受け入れる消費者層は存在します。しかしそれは、ピラミッドのトップ10%にしか過ぎません。問題は残りの90%です。その層にこそ最大のチャンスがあります。そこを制するには、白紙の状態から始めないといけません。

── おそらく多くの日本企業にとっては、マインドセットの転換が最大のボトルネックとなるでしょう。

 マインドセットを変えるということは、重心を日本から、新興国に移すことを意味します。意思決定の中心地も移さないといけません。

 歴史的にみると、日本の企業は規模の経済で勝っていました。コスト効率に優れた方法で高品質の製品をつくり、規模の経済を利用したことによって得た成功です。この過去の成功こそが、日本企業にとって最大の問題です。

 いま必要とされているのは、リバース・イノベーションに特化した組織を貧しい国でつくることです。我々がローカル・グロース・チーム(LGT)と呼ぶこの組織は、あたかもベンチャー企業のごとく設計され、行動することが重要です。

 ですから、ブラジルでやるとすれば、ブラジル人がメンバーにいなければなりません。もちろん日本人のメンバーも必要ですが、ローカルを多くしなければなりません。現地の顧客の問題を解決するためには、ローカルの文化や環境に対する深い理解が不可欠だからです。

 十分な予算と意思決定権も与えることも必要です。それと同時に、LGTの評価は、グローバルで用いる通常の指標ではなく、実験する能力で評価するべきです。これは日本企業だけでなく、すべての企業にとって重大な転換と言えます。