失敗から学んできた創業者は、
経営判断の際の優先順位を間違えない

 創業者は、今風の表現をすれば「スタートアップ」の成功者です。

 彼らは他の人がやっていない、あるいは気付いていない事業のユニークな切り口に商機を見出し、果敢に挑戦してビジネスチャンスを切り開いてきました。

 創業者にとっての最優先事項は常に、「まだ見ぬ事業機会を見出し、それをものにせよ」です。

 その際の資源となる手元の現金を使い、事業機会へ切り込む角度にさえ確信を持てれば、少々の苦労とリスクはあっても切り込んでいきます。その角度が良ければ道は必ず開けること、そしてリターンはその結果として、時間がかかっても後からついてくることをよく理解しています。

 その一方で、自分の部下に対しては「売上を上げろ」、新規事業を人に任せている場合などは「とりあえずは黒字化させろ」という檄(げき)を飛ばして、追い込みます。

 そして、めでたく上場を果たすと、財務諸表が期ごとに世に公表され、企業は「利益、つまり配当を生み出すエンジン」の色を帯びてきます。リターンを期待する株主にとっては、配当を生み出すキャッシュマシーンと化し、事業価値の向上を期待する投資の対象となっていきます。

 社内的にもわかりやすく、かつ金融機関も重視する、売上の伸び、粗利、経費、その下に記載される営業利益、経常利益、税引き後当期純利益、つまりPLを意識するようになります。

 それでも創業者がトップのうちは、日々、どんなに「売上だ!」「利益だ!」と騒いでいても、本当に重要なのは事業機会の開拓による成長への挑戦であり、そしてその前提にある事業の存続であることを十二分に理解しています。

 そもそも銀行がPLを意識するのは、企業に貸し付けた金額が安全に回収できる状態であるかどうかが最重要な管理項目であるというだけの理由です。

 よって、借入先のメインバンクが不安になるような財務内容でない限りは、本当に苦労をしてきた創業者ほど、最終的な経営判断の際に、事業の存続と将来の発展を重視し、本当の優先順位を間違うことは、まずありません。