手元の資金が心配だから、毎日売上を確認する

なぜ、経営者は<br />PLを自身の成績表と<br />錯覚してしまうのか?稲田将人(いなだ・まさと)
株式会社RE-Engineering Partners代表/経営コンサルタント
早稲田大学大学院理工学研究科修了。神戸大学非常勤講師。豊田自動織機製作所より企業派遣で米国コロンビア大学大学院コンピューターサイエンス科にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼー退職後は、企業側の依頼にもとづき、大手企業の代表取締役、役員、事業・営業責任者として売上V字回復、収益性強化などの企業改革を行う。これまで経営改革に携わったおもな企業に、アオキインターナショナル(現AOKI HD)、ロック・ フィールド、日本コカ・コーラ、三城(現三城HD)、ワールド、卑弥呼などがある。ワールドでは、低迷していた大型ブランドを再活性化し、ふたたび成長軌道入れを実現した。 2008年8月にRE-Engineering Partnersを設立。成長軌道入れのための企業変革を外部スタッフ、役員として請け負う。戦略構築だけにとどまらず、企業が永続的に発展するための社内の習慣づけ、文化づくりを行い、事業の着実な成長軌道入れまでを行えるのが強み。 著書に、『戦略参謀』『経営参謀』『戦略参謀の仕事』(以上、ダイヤモンド社)、『PDCA プロフェッショナル』(東洋経済新報社)、『PDCAマネジメント』(日経文庫)がある。

 実は、創業者が日々の売上を見るのは、会社の資金繰りが大丈夫かを確認する創業時の習慣からきています。ご存じのように企業は、月次や年次の決算のPL(損益計算書)が赤字になったからといって、すぐには倒産しません。

 企業の息の根が止まるのは、支払いができない、返済や利払いができないなど、現金が枯渇して資金繰りがストップした時です。

 小売業では、日々の売上を現金で受け取っている場合、問屋から仕入れた商品の支払いが翌月末であれば、ほぼ1ヵ月から1ヵ月半分の売上(現金)が手元資金としてあることになります。この入金と支払いの時間差を利用した「回転差資金」(現金の回収と支払との差から生じる余裕資金)と呼ばれる手元資金つくりの方法を使うと、特に大きな売上をつくった時には、手元に多額の現金を得ることができることを、小売業の創業者のほとんどが理解しています。

 小売業チェーンの創業者が、なりふり構わぬ「閉店セール」「半額セール」などの過激なうたい文句のセールを好みがちな理由がここにあります。

「手元の資金が心配だから、毎日私は売上を確認する」

 こう言ってしまうと、大物感も失せて格好悪いと考えるのか、創業者もなかなかそうは口にしないものです。

 上場して資金繰りに不安がなくなっても、経営者は現金が枯渇した時のトラウマや、あるいは「攻めに使える資金力」を備えておきたいと常に考えるものです。

 創業トップが、手元資金の増減を把握するために日々売上高をチェックしているということは、管理本部長や財務担当役員以外は、側近の幹部であっても案外気が付いていません。