「自分の成績表に汚点が残らないように」と
リスクを避けてしまう
ところが代が替わって、2代目以降、あるいは生え抜きの社長、それも学歴の高い社長の代となってくると、無意識のうちにPLを自身の「成績表」として意識するようになります。
世に名の知られた上場企業では多くの場合、高学歴の方が集まります。その中で、社内で評価される実績を上げた方が経営層に入り、そしてトップになると「自分の成績表に汚点が残らないように」と似た感覚で、とりあえず赤字や減益を避けようとする傾向が出てきます。
一般的には、事業部長として実績を上げた方が次の社長候補になります。ただし事業部長はPLの数字で評価されることが多く、BS(Balance Sheet、貸借対照表)の感覚が磨かれていないことがあります。ROE(自己資本利益率)の感覚を持てずに、たとえば工場や物流センターなどに理にかなわない大きな投資をしてしまう例もあります。
また歴史のある多くの上場企業では、高度成長期からの慣習で、前述のように2期4年でのトップの交代が恒例になっています。しかしながらこの任期4年は、自身で新しい種をまき、じっくり、しっかりと育てるには短すぎ、在任中の減益のリスクを回避しようとするとますます大胆な手が打たれにくい状態になります。
日本では、米国企業のトップはすぐに変わる印象を持っている人が多いようです。
しかしこれは、マスコミは大きな変化ばかりを記事のネタとして報道するために起きた錯覚で、GEのジャック・ウェルチが16年間トップの座にいたように、優秀なトップは長期間、続投することがマスコミには報道されない現実です。
考えてみればこれは理にかなった話で、米国の優良な大企業では、トップに上がるまでには、事業部長、事業本部長、そして不振事業の立て直しなどで、その腕を磨きます。彼らは、数多くの優秀者の中から実績を通じて、自身の秀でた能力を証明してきた人材です。
目をつぶっていても市場が勝手に発展する高度成長期ならいざ知らず、今のように変化対応が最も重要な経営者の役割となる時代に、真に腕を磨いてきた人材に腕を振るってもらう期間を2期4年に制約してしまうのは、市場、社員、そして株主の視点からもおかしな話です。