さらには、提案は一つであってはいけない。一つの場合、上司との関係は、意見を受け入れるか、受け入れないかという二者択一となってしまう。

 複数の選択肢がよい。「この点を重視すると選択肢1が、別の点を重視すると選択肢2が、さらに別の点を重視すると選択肢3がよいのではないかと思いましたが、いかがでしょう?」という持ちかけ方にする。すると、がぜん質の高い議論となり、批判ではなく生産的で、かつ受諾か否かではなく、本来どのような基準が必要で、そのためにどうあるべきかという話になる。

 また、上の者との関係においては、頼みごとをするのではなく、貸しをたくさん作ることが重要である。

 私が仕事を始めた頃のある上司は気配りのできるたいへん優れた人であった。経営者の側近として活躍しており、経営者が今後何をしようと考えているか、次にどんな手を打つかを意識していた。常に先読みをして、担当役員や事業部長などに「今はこんなことを考えておられるので、近い将来、○○をどう考えているかについて質問されると思いますよ」などと連絡をしていた。

 その後、経営者が役員や事業部長に、「ところで、○○はどうしたらよいかな?」などとふと思いついたように尋ねたときには、彼らはすでにしっかりと答えが用意できているから、よどみなく答えることができた。経営者は満足し、役員や事業部長は経営者の意向に無事応えられたことで救われたのである。

「君の上司のおかげで助かった。お礼を言っておいてほしい」と何度言われただろうか。上司は取締役たちに非常に多くの貸しを作っていたのである(そしてもちろん出世した)。

呑気な態度を見せよ
やたらとへつらうな

 完璧な廷臣を演じるためには、実は本人が完璧に見えてはいけない。抜けていることが重要である。完璧な廷臣=「腹黒く気配を消しながら権力奪取を狙うずる賢い者」である。そのような者に見えてしまったとすれば、誰からも警戒される。

 一方、呑気(のんき)で間抜けなところがあり、上司を尊敬しつつもへつらわない、くらいの者がダークホースとして生き残る。

 大好きな趣味があり、週に1回は必ず定時に会社を出て趣味に熱中している。上司からの誘いよりも、自分の趣味を優先しているが、周りも「あいつにとって、○○は命より大事だから、まあいいんじゃない」といって許す、といった状況を作るのが望ましい。誰もがあいつにとって出世は二の次、三の次と思わせておく。

 そう見せかけておいて、ここぞというときには完璧に準備をして、隙のないプレゼンを行い「なかなかやるな」と思わせる。普段とのギャップが実際の貢献よりも当人を大きく見せるのである。

 へつらわないというのは、実際に褒めないということではない。ただ、上司がプレゼンをする場面に同席して、いつも「素晴らしいです。さすが○○部長です」などというのは分かりやすすぎておべっかだと見抜かれる。賢い廷臣は、個別具体的に「プレゼンの中でおっしゃった○○はいったいどうやって思いつかれたのでしょうか。勉強したいので教えてください」などと言う。本当にそう思っている場合も演技の場合もあるのだろうが、こういう言動は上司の覚えを格別に良いものにする。