多くの憲法学者も在任中に訴追されたトランプの弾劾裁判は退任後も合法であると判断している。先月、150人以上の憲法学者が「合衆国憲法は前大統領を含む前公職者に対して弾劾訴追し裁判で有罪評決を下す権利が議会にはあるとしている」という声明を発表したくらいだ。

 9日、初日の審理冒頭で大型モニターに14分間に編集された議事堂襲撃事件の動画が流された瞬間、議場は水を打ったよう静まりかえった。トランプ大統領がホワイトハウス近くに集まった支持者たちに「議事堂に行け」とけしかけるシーンから始まり、乱入した暴徒たちが警察官を襲撃する様子や議員らが慌てて避難する場面が映し出されたからだ。

「これが弾劾可能でないなら何も弾劾できなくなる」検察官役を務める下院民主党の筆頭弾劾マネジャーは訴えた。

 その後の投票では56対44の賛成多数で前トランプ大統領を裁く弾劾裁判の合憲性が認められた。

 それでもトランプに無罪評決が下るのが確実視されているのは、共和党がすっかりトランプ党に変質してしまったからだ。裁判を進めることが合憲であると認めた共和党議員は6人。トランプ有罪評決に必要な17票には大きな開きがある。罪深きは党利党略、自己保身のために傍若無人な大ぼら吹きを擁護する共和党である。

 これまでに上院での弾劾裁判に至った大統領は1868年のアンドリュー・ジョンソン(民主党)と1998年のビル・クリントン(民主党)のふたりだけで、両者とも無罪評決を受けている。

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 すでに史上初2回目の弾劾訴追を受けたトランプが有罪となれば、これまた史上初となるわけだ。そうなれば怒り狂ったトランプはきっと「不当な裁判だ!」とわめき散らし、弁護費用まで踏み倒すだろう。

 弾劾裁判で無罪となってもトランプには巨額の借金と司法妨害、公職選挙法違反、反乱教唆などに対する刑事訴追が待っている。一族が経営するトランプ・オーガニゼーションにも捜査の手が伸びるだろう。だがそれでもトランプは逃げおおせると盲信している節がある。

 思い返せば2016年の大統領選挙キャンペーン中にトランプはこう豪語していた。

「ニューヨークの五番街のど真ん中に立って俺が誰かを銃で撃ったとしても俺の支持者はひとりも減らないぜ。オーケー?」

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)