「消費」から「創造」へ態度を変える

──お話を伺っていると、岡田さんは「日常を面白がる」視点を常に持っていらっしゃいますよね。今回書かれた本のなかでも、「遠くへ行かなくても、旅はできる」と書かれていました。その「日常を面白がる」視点が身についたきっかけはありますか?

岡田:もともと僕はめちゃくちゃ田舎の出身で、周りに何もなかったんです。山ばっかりで、娯楽も一切なくて。あまり友達もいなかったし、兄弟もかなり年が離れていたから、子どものころはずっと一人で遊んでいました。ウルトラマンの人形を全部集めて表にしたり、秘密基地をつくったり……。

 子どもって、なんでも遊びにしちゃうじゃないですか。日常を旅にできるのって、そういう感覚を持つことだと思うんです。

 たとえば、僕、五反田駅前にある「魚がし日本一」という立ち食い寿司屋のクーポン券の内容を、3年間、ずっと記録し続けていたんです。「魚がし」からは毎週火曜日にLINEクーポンが発行されるんですね。サーモンとか、まぐろとか、えんがわとか、どのネタが出てくるのかはランダムでわからないんですけど、毎週どれかのネタを無料で食べられる。

 やっぱり自分が好きなネタが出てくるとたまらなく嬉しくて、僕はひそかに「今週はどのネタなんだろう?」とわくわくしながら火曜日を待っていたわけですが、だんだん、ただ届いたクーポンに一喜一憂するだけでは物足りなくなってきました。そこで思いついたのが、「来週のクーポンを予想できないか?」と。

──『0メートルの旅』の本編にもありましたね。

岡田:はい。毎週ネタをExcelのシートに記入するようになって。続けていると、発行されるネタの規則性が見えてきて、思いもよらぬ展開になったりする。

70カ国以上訪れた男がコロナ下で続ける「日常が旅になる3つの習慣」寿司クーポンの周期性を「王朝」の概念でまとめた『0メートルの旅』本編の「近所編」は必見。

「送られてきたクーポンを受け取って使う」って消費するだけだと、ただのいつも通りの日常だけれど、「次のクーポンは何だろう? 当ててやるぞ!」って、自分で何か一個でも新しくルールをつくったり、世界観をプラスするだけで、創造的な行為になる。たとえ移動距離が0メートルだったとしても、そんなふうに「消費」から「創造」へと態度を変えるだけで、旅みたいな瞬間って味わえるんじゃないかと思うんです。

 僕は、ふだん会計ソフトをつくる仕事をしていて、効率化のことばかり考えています。もちろんそれはそれでいいんですけど、効率性ばかりに支配されてしまうと、どんどん日常が色褪せて、輝きがなくなっていく。だからこそ、わざとそうじゃない部分をつくるようにしています。

 今回の本も、「移動距離に制約されることなく、旅への渇きを満たせたらいいな」という思いをこめて書きました。今はなかなか海外に行けない時代なので、旅行欲をどう発散しようかと悩んでいる人も多いと思いますが、今回の本が、誰かにとっての「0メートルの旅」につながったら嬉しいなと思います。

70カ国以上訪れた男がコロナ下で続ける「日常が旅になる3つの習慣」