火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。化学という学問の知的探求の営みを伝えると同時に、人間の夢や欲望を形にしてきた「化学」の実学として面白さを、著者の親切な文章と、図解、イラストも用いながら、やわらかく読者に届ける、白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』が発刊。発売たちまち5000部の重版となっている。
池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

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ワインの歴史

 ワインはつぶしたブドウの果汁を発酵させたものである。おそらく最初は、ブドウの皮についていた天然の酵母によってアルコールができたのだろう。

 最古のワインの遺物は、現在のジョージア(旧グルジア)が位置しているコーカサス山脈周辺のエリアから見つかった。二〇一七年に、土器が吸収した成分を化学分析すると、ユーラシア地域のブドウを醸造したことを示す物質が検出された。土器には、ブドウの房や踊る男性の素朴な画が描かれている。このエリアは、ワイン醸造の遺跡も残されており、八千年以上も前からこの地でワインが親しまれていたことが遺物の分析から示されたのだ。

 穀物や果物を酒に変える技術は、人を酔わせるアルコールの作用が解明される以前は、大変に不思議なことであり、神秘性、宗教性が付与されていた。そうした宗教的飲み物の代表がワインである。ワインはメソポタミア、エジプト、クレタ島を経由してギリシア世界に伝えられ、ギリシア、ローマで広く愛飲された。

 古代ギリシアのワインは、いまと違って生のままでは飲めないくらいどろどろとして濃厚で粘り気があったので、水などで割って飲まれていた。ギリシア人にとって、ワインの割り方、飲み方などにもこだわりを持つことは、みずからの洗練さを強調する行為であった。