負けを真剣に悔しがるチームに
「世界の強豪に勝つには、選手の“負け犬根性”を変えなければならない」
組織文化を根底から変えるため、エディ監督は圧倒的な練習量を課しました。本気で追い込めば30分で再起不能になるようなトレーニングを1日5回も実践。早朝5時からハードワークを重ねて、選手たちの目を嫌というほど覚ましていきました。
当時の方針について、エディ監督は私にこう語っていました。
「W杯の舞台に立ったとき、おれたちはどのチームよりも限界まで練習したという自信を植えつけたいんだ。このメンバーならそれをやりきれるはずだ」
エディ監督の信念の下、極限まで追い込むハードワークを続けるうちに、選手の行動が変わっていきました。早朝練習に備えて、夜9時頃にはほとんどの選手が就寝するようになり、規律ある生活が浸透していったのです。
選手一人ひとりのマインドも、試合の結果も変わりはじめました。
そしてエディ監督が廣瀬選手を叱った日から1年後の2013年6月、世界トップクラスであるウェールズとのテストマッチに、日本代表は23対8で勝利しました。
本気でやれば、勝てる。
そんな当たり前のことがわかると、チームの中に漂っていた“負け犬根性”はすっと消えていきました。代わりに言い訳をしない空気が広がり、それはやがて、がむしゃらに勝利を追い求める組織文化へ変わっていきました。
負けても照れ笑いをするチームから、負けたら本気で悔しがるチームへ。180度の大転換が起こりました。
エディ監督が3年間をかけて刷新した日本代表の組織文化。その土台の上に、ジェイミー監督は「ワンチーム」を掲げ、選手からチームスタッフまで、関係者が家族のように信頼し合える組織文化を構築していきました。
いくらスキルや身体能力が高くても、エゴの強い人間や自分だけを大事にする人間、陰口を言うような人間は仲間に入れない。ワンチームを浸透させるため、ジェイミー監督は選手やスタッフの間でコミュニケーションを徹底させました。
チーム全体の会話量が増えると、選手やスタッフは互いに弱みをさらけ出し、失敗を認め合うようになっていきました。
この結束力が勝利に突き進む組織文化になったと私は考えています。
1995年、第3回W杯で日本代表はニュージーランドに17対145で大敗し、W杯の最多失点として不名誉な記録を残しました。そして自信を失い、勝利に対する執着心を手放してしまいました。
それから24年──。
“負け犬根性”が染みついていた日本代表は、いまや世界ランキング10位(2021年1月16日時点)となり、W杯でベスト8に食い込むまでに大躍進を遂げました。
負け試合で照れ笑いを浮かべていたチームが、弱みをさらけ出して学び合い、一丸となって貪欲に勝利を目指すチームへ──。
大転換を実現したのは、世界レベルのコーチングに基づいたラグビーのスキルや戦略、戦術が成熟し、選手たちの身体能力が高まったことが主な理由ですが、それだけではありませんでした。選手一人ひとりが自律的に自分たちのチームの文化を変え、ウィニングカルチャーを根づかせていった結果だと私は分析しています。
ラグビーはこれまで、選手の体の大きさや強さが決定的に影響するスポーツだと思われてきました。その点、欧米人に比べて小柄で華奢な日本人が海外の選手に伍して戦えるとは誰も思っていなかったはずです。
しかし、実際には物理的な課題も乗り越えることができたわけです。
実現できたのは、チームにウィニングカルチャーが浸透したからに違いありません。
これは、ラグビー日本代表に限った話ではありません。チームや組織、企業など、ビジネスの世界においても、同じようにウィニングカルチャーが浸透すれば、強いチームをつくることができます。
(本記事は『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』の「はじめに」を再構成しました)