半導体確保に必死のバイデン政権
TSMCの生産ラインを取り合う各国企業

 文氏は安全保障面で米国を重視する一方で、経済面では中国を優先し、外交面では北朝鮮との宥和(ゆうわ)と反日の考えを重視してきた。ここへ来て文大統領は、中国の習近平氏と電話会談を行うなど、中国との関係強化を一段と強めているようだ。

 バイデン政権は、韓国に対して対北朝鮮政策について日米と歩調を合わせるよう求めているが、今までのところ文政権は立場を明確にしていない。むしろ、北朝鮮の金正恩氏の発言に合わせて、政府内の人事を修正するなどしている。文氏の「北朝鮮優先主義」に大きな変化はないようだ。専門家の中には「文大統領がバイデン政権の信頼を確保できるか否か難しい」との見方もある。

 昨年(2020年)の秋頃から、世界経済全体で半導体の需給ひっ迫が鮮明となっている。

 その一因として、世界経済のデジタル・トランスフォーメーションが加速し、スマートフォンや高性能コンピューター向けの最先端の半導体需要が高まった。そこに車載半導体の需要回復も加わったのである。TSMCの生産ラインを各国企業が取り合うというべき状況となっている。

 米中の対立が半導体不足に与えた影響も軽視できない。

 米国のトランプ前政権は、中国のファウンドリーであるSMIC(中芯国際集成電路製造)へ制裁を科した。車載半導体メーカーは委託先をSMICからTSMCへ切り替え、TSMCは供給能力を上回る需要に直面している。車載半導体が不足し、米国ではフォードとGMが減産を決定した。労働組合を主な支持基盤としてきた民主党のバイデン政権にとって、半導体確保は経済運営上の重要課題なのである。

 事態の打開に向けて、バイデン政権は台湾当局との連携を強めている。その背景には、目先の半導体確保だけでなく、中長期的な視点で最先端分野を中心とする半導体関連技術を自国に集積させ、中国との覇権争いを有利に進める狙いがあるはずだ。

 米国の制裁によってSMICは、思うように半導体製造装置を調達することができていない。製造技術に関しても中国の実力は十分ではなく、「中国製造2025」の進捗は遅れるだろう。その状況は、米国がIT先端分野での優位性を維持し、基軸国家としての地位を守るために重要だ。

 そのためにバイデン政権は、TSMCに米国内でのいち早い生産開始や生産能力の増強を求める可能性がある。それに加えて、バイデン政権が垂直統合を重視する、インテルなど自国の半導体企業に補助金を支給し、事業運営をサポートすることも考えられる。

米国が不安視する
文大統領の政策運営

 半導体の確保に向けてバイデン政権が、ファウンドリー事業の強化に取り組む韓国のサムスン電子よりも台湾のTSMCを重視する背景には、北朝鮮などに関する文氏の政策への不安がある。

 米国務省は、同盟国が連携して北朝鮮に毅然とした立場で臨むことが重要との立場だ。わが国もその考えに賛同し、米国はわが国との連携を重視している。

 その一方で、文大統領は「米韓の合同軍事演習を北朝鮮と協議できる」と発言するなど、北朝鮮との宥和を重視している。2018年に文政権が北朝鮮での原子力発電所建設を検討していたことも見逃せない。

 日韓関係も不透明だ。一時、文氏はわが国に対して秋波を送る発言を行った。しかし、今年2月に入って韓国の大田地裁は、元挺身(ていしん)隊員らへの賠償問題を巡って、わが国の三菱重工が行った即時抗告の一部を棄却した。文氏の対日政策が変わったとはいえない。

 ある意味、バイデン政権にとって文政権は困ったパートナーに映っているだろう。米国が安全保障にかかわる半導体分野で韓国との関係強化に取り組むことは難しい。

 しかし韓国にとっては、米国との安全保障面での関係強化は、海外からの技術移転を進め、その上で外需を取り込むために不可欠な要素だ。日米の半導体関連の技術や部材を必要とするサムスン電子などが世界的な半導体の需給ひっ迫に対応し、収益拡大を目指すためには、文政権が日米との連携を重視するという立場を明確に示すことが重要だ。だが、現実にはそうなっていない。

 文政権は北朝鮮との宥和政策などを重視することによって、目先の政権基盤の安定につなげたいようだ。それは中長期的な社会と経済の安定を目指す政策とは異なる。