「ポジティブ・シンキング」は危険!

 これを、保険業界では「メンタル・ブロック」と呼んでいました。

「断られるのが怖い」という恐怖心が心理的なブロックとなって行動ができなくなるという意味で、保険業界に入るまでは耳にしたことがない言葉でしたが、まさに自分が置かれている心理的な状況を言い当てている絶妙なネーミングだと思いました。

 ただ、その言葉の使い方には違和感がありました。

 というのは、多くの営業マンが、「メンタル・ブロックがあるから、今日はこれ以上テレアポできない」といった使い方をしていたからです。

 もちろん、その気持ちはよくわかります。僕だってもちろん断られるのはイヤです。そういう意味ではメンタル・ブロックはもちろんあります。でも、メンタル・ブロックという言葉を「やらない言い訳」にしても何も起こりません。

 むしろ、そうやって自分を甘やかすことは、結局のところ、自分の首を締める結果を招くだけです。だって、メンタル・ブロックがあろうがなかろうが、お客様にアプローチをしなければ、絶対に結果は出ないんですから……。

 だから、僕は、メンタル・ブロックという言葉を「禁句」にしましたし、メンタル・ブロックを話題に持ち出されたときには、適当に調子を合わせながらも、その話題に深入りしないようにしていました。僕の中にも、辛いことから逃げたい気持ちがありますから、そちらのほうに流されないように予防線を張っていたのです。

 ただし、メンタル・ブロックを言い訳にするより、さらに危険なことがあります。

 それは、「自分にはメンタル・ブロックなんてない」という思考法です。それをポジティブ・シンキングというのかもしれませんが、これはすごく危険な発想だと僕は思っています。

 なぜ危険かというと、そこには“ごまかし”があるからです。

 だって、誰だって断られるのはイヤじゃないですか? 傷つくじゃないですか? そして、断られ続けたら、誰だって営業するのが怖くなるし、電話すらも怖くなるのは当然。僕だって、すごく怖くなった。

 それを否定するのって、絶対に無理があると思うんです。実際、「僕にはメンタル・ブロックなんてありません! ポジティブ・シンキングが大事ですよ」などと公言しながら、無理に無理を重ねていた営業マンが、途中でポッキリと心が折れていくのを目の当たりにしたことがあります。

 僕は心理学者ではないから、「なぜ、ポジティブ・シンキングで心が折れるのか」を分析することはできませんが、なんとなくわかります。

 ポジティブ・シンキングというと“聞こえ”はいいですが、要するに、傷ついて、落ち込んで、弱気になっている自分の「弱さ」から目をそらして、自分の「本当の気持ち」をごまかしているだけだからです。自分の心を労ってあげもせず、無理に無理を重ねていたら、誰だって心が壊れてしまうと思うのです。

イチロー選手の「言葉」に学んだ
営業マンの鉄則とは?

 だから、僕は「自分の弱さ」を受け入れるように心がけていました。

 強がる必要はないと思ったのです。お客様に断られ続けて、電話するのが怖くなったら、「ほんま怖いな……。もう電話したくないな」と認めてしまうんです。そして、「こんなに断られ続けたら、誰だって怖くなる。俺もそうや。それはしゃーないことや」と自分に語りかけました。

 重要なのは、ここからです。

 ここで、さらに自分にこう問いかけました。

「怖いよな? 逃げ出したいよな? だけど、自分はどうなりたいんや? 営業マンとして成功したいんやろ? あとで後悔したくないんやろ? やれる限りのことやり尽くしたいんやろ? カッコ悪い自分は、もうイヤなんやろ? だったら、どうしたらええねん?」

 要するに、「やるか? やらないか?」の二者択一を自分に迫るわけです。

 答えは一つしかありません。やるしかないんです。電話するのは怖いけど、やるしかない。それに、それこそが「自分のためによいこと」なんです。そう思うと、だんだんと「やるしかないな」と腹が決まってくるんです。

 でも、もちろん、そんなに簡単にいかないこともあります。

 いくら自分に「やるしかないやろ?」と問いかけても、「そらそうやけど……」とグズグズしてしまう。むしろ、そういうときのほうが多かったかもしれません。人間だもの……仕方ないですよね。

 そんなときには、イチロー選手の「打率4割を目指したことはない」という言葉を思い出しました。