猛暑や豪雨に適応した
製品ニーズが高まる理由
気候変動の影響から、年々夏場に高温の日が増えている。
この傾向は今後ますます強まっていくだろう。
健康に関する影響として、熱波や熱中症による死亡リスクの増加、熱帯性感染症の増加等が挙げられる。温暖化による気温上昇にともない、屋外で働く作業者の熱中症リスクも増え、安全管理や業務運営に支障をきたす恐れがある。
作業服には冷感シャツがあるが、一般向けにはまだ普及していない。
これは生地表面に冷感素材を使用し、着用時にひんやりした感触が得られ、体温上昇を抑えてくれる。さらに、汗をすばやく吸収、拡散させる吸汗速乾機能をプラスし、肌触りを常にサラッとドライに保つ。着ないより着たほうがすずしい。
ワークマンの看板製品である高機能・低価格の冷感シャツが一般向けの肌標準になる可能性は高い。将来は小型扇風機のようなファンタイプと、より小型の熱交換半導体ベースの2種類の「空調服」を一般客が普通に着るようになるだろう。
また、気候変動は雨の降り方を変える。
日本でも自然災害につながる1時間当たりの降水量が100ミリ以上の大雨の日が増えている。
ワークマンは災害復旧用製品に強い。
災害時には自治体の要請に基づき、復旧作業用品を寄付している。
ただし、最近は自店舗が洪水で3軒も流された。
床上浸水で製品が全損になった店もあり、被災者側になることも多い。
災害の過酷さを日々実感するばかりだ。
このように雨が増加する傾向にあるのは、日本だけでなく東アジアの広い範囲でも共通している。
水は気温が高いほど早く蒸発する。
そのため気温が上がると、空気中の水蒸気量が増え、湿度が高くなる。強い雨が頻繁に降るので、洪水や土砂災害が増える。
そうなると、高機能・低価格の雨具の需要が増える。
日本では年間120日程度雨が降るが、これからはその日数が増え、雨の降り方も変わる。
そうなると、レインウェア、傘、靴などのニーズが多様化してくる。
働き方や遊び方に応じた機能、雨の程度(小雨、中程度の雨、豪雨)に応じた機能も必要になるだろう。
反対に、冬の「重防寒」製品の需要に影響が出る可能性もある。
暖冬になれば家電量販店の暖房器具の売上が減少するし、近年は雪不足により通常シーズンの半分程度しか営業できないスキー場が続出している。
これにより、ワークマンが得意な冬場の製品の売上が減少する可能性がある。
豪雨の際に、どの地域で、どの製品が動くのか。高温が続いたときはどうかなどをデータで分析し、製品開発や在庫管理に活かしながら、ブルーオーシャン市場の拡張(客層拡大)を狙う。
雨の日に必要な製品に特化した「ワークマンレイン」という新業態は十分可能性があると思っている。市場規模も最低1000億円あり、半分のシェアを取ることも決して夢ではない。
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。