発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から特別に抜粋し「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年8月22日の記事の再掲載です)。
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気づかいベタに、リモートワークはキツい
在宅ワークで一番難しいのは「人間関係を維持すること」だと僕は思います。なかでも「用事がなければ連絡しないゆるい関係の人」といかにつながっておけるか。これが、その後の仕事に大きく影響します。
発達障害、とくにASD傾向のある方は、ただでさえ人との距離感を掴むのが苦手です。「関係を維持するための、押しつけがましくない顔つなぎの連絡」って、なかなか難しいですよね。コロナ以前なら力技で「とりあえず呑みに行きましょう」もアリといえばアリでしたし、あるいは誰かが会食の場を設けてくれたりで済んでいたものが、自粛ムードもあり、やりづらくなってしまいました。
僕自身、「定例の会合」で集まっていた人たち、あるいは「同じ趣味を共有している」理由で仲よくしていた人、釣りや外食を一緒にする人たちと徐々に人間関係の距離が離れていくのを感じます。僕たちの人間関係は思った以上に「場所」というものによって規定されていたようです。これからは「能動的に」働きかけないと、人間関係が維持できない時代になってしまうのでは、と危惧しています。
ゆるい人間関係を維持するためにおすすめしたいのが、「贈答」の習慣です。これのいいところは、たった数千円を投資するだけで誰でもできて、空気を読んだりする必要もないところです。「Zoom飲み会」のような高度なコミュニケーション能力は求められない割に、相手からは「気の利いた人だな」という印象を持ってもらえます。
僕もコロナ禍で自粛中にある社長さんからすごくおいしいチーズケーキが送られてきて、さすがだなと思いました。「最近あなたと会えてないけれど、私はあなたのことをちゃんと気にかけているし、今後ともよろしく」とスマートに伝えてくれる、素晴らしいノウハウです。
賄賂と思われないために必要なこと
贈答で気をつける点は、次の通りです。
【贈答品のルール】
・嫌いな人はいない定番のお菓子を選ぶ(僕はひたすら虎屋の羊羹をリピートしてます)
・相手の会社・家庭で無理なく消費できる量、価格帯
・金額は1万円を上限に、相手によって調整
早速、もらった相手の負担になりすぎない贈り物を「最近連絡を取っていないな……元気かな」という相手に贈ってみましょう。
「安全な贈答」とは、「今後ともよろしくお願いします。私はあなたを覚えていて、大切なつながりだと思っています」だけが伝わるもの。贈賄とは違います。「たいした価値ではないけれど、もらうとうれしい」ラインが適正と考えてください。
気合いが入りすぎて20万円くらいのワインを贈ってしまうと、それは相手に「○○をやってくれ」と要求するメッセージになってしまいます。もちろん、狙ってやっているプロもいますが、僕らとはゴールが違うので注意してください。ASDのみなさん、「感謝の気持ちを表すために100グラム5000円の肉を5キロ送りつける」みたいなことをしがちなので注意してください(僕の友人の実話です)。