日本企業には
「勝ち続ける仕組み」が欠けている

 とはいえこれは、「仕事の一部を自動化してコストを削減する」といった施策ではあり得ません。

 そのような直線的なAI活用は、他社にも容易にマネできるため、御社の本質的な競争力向上には寄与しないためです。

 AIがコモディティ化し、ゲームの焦点が「技術」ではなくなったいま、求められているのはAI活用の「戦略デザイン」です。

・AIを取り入れることで、御社の「持続的な競争優位性」を高められるか?
・AI実装によって「何重にも利益を生み出すループ」を描けているか?
・御社のAI活用は「勝ち続ける仕組み」をデザインできているか?

 これからのビジネスは、これらを問うべきフェーズに来ています。「どの仕事をAIにやってもらえば、どれくらいコストが浮くだろう?」といった議論で立ち止まっているわけにはいかないのです。

 この水面下でのシフトにいち早く気づき、しかるべき対応を取れるかどうかが、今後のビジネスの成否を決めるといってもいいでしょう。

 そして何より強調したいのが、中小を含めた日本企業にとって、このようなゲームチェンジは、願ってもないチャンスだということです。

「AI活用の戦略デザイン」という観点でいえば、世界全体を見渡してみても、日本企業には圧倒的なポテンシャルが眠っているのですから。

 その「追い風」を逃さないために、企業は何をすればいいのか──?

 その答えとなるのが、「ダブルハーベストループ」という戦略モデルです。

AIブームは終焉したのか

 AI技術はすでにコモディティ化しつつあります。つまり、もはや誰にでも簡単に利用できるものになったのです。これはまごうことなき事実です。

 AIと名がつくだけでもてはやされた時代は過去のものとなり、これからはAIを当たり前に使いこなして、いかに稼ぐかの勝負になっていきます。データをもっているだけでは差別化できず、AI技術者をたくさん抱えるだけでは、もはや競合に対して競争優位は築けません。

 しかし、それは「AIは役に立たない」ということを意味しません。実際はまったく逆で、AIを使うことがビジネスの大前提になったわけです。それなしには、もはや競争の土俵に立つことさえ許されない時代が目前に迫っています。

 AIが当たり前になったからこそ、ともすれば掛け声だけに陥りがちだった過熱気味のブームが去り、着実にAIが生み出す果実を「収穫」するフェーズに入ったのです。実際、すでに世界のいくつかの先端企業は、このような収穫のサイクルに入っています。

「収穫」は英語で「ハーベスト(Harvest)」。「ダブルハーベスト」とは、「1回収穫して終わり」ではなく、AIを組み込んだ戦略を正しくデザインし、自走する仕組み(ループ構造)をつくることで、二重、三重に実りを収穫し続けられることを指しています。

 それを実現するためのフレームワークを提供し、他社に勝つだけではなく、勝ち続ける仕組みを実現するのが『ダブルハーベスト』の目的です。

あらゆる産業に
AIの恩恵がもたらされる

 このように書くと、まだAIに手をつけていない企業の方は、「自分たちは出遅れてしまってもう間に合わない」と思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。AIがコモディティ化したということは、誰でも安くAIを利用できるようになったということだからです。

 実際、いまやAIがもたらすさまざまな機能は、自社で一から開発しなくても、よそから借りてくることが可能になっています。レゴのパーツのように必要な機能を組み合わせるだけで、AIの果実を自社に取り込むことができるのです。

 ですから、いままでAIなんて縁遠いと思っていたみなさんこそが、『ダブルハーベスト』の戦略論のメインターゲットなのです。いや、むしろ、労働集約型で営業利益率が低く、追加のコスト負担に耐えられないせいでデジタル化・AI化の波に取り残されてきた企業群ほど、このフレームワークによって、より大きな「収穫」を手にできるはずです。

 そこには、顧客接点を握る数店~数十店規模の飲食チェーンやヘアサロン、学習塾、生産現場をもつ中小メーカーや地場産業、作業現場に出入りする建設業者、農林水産物の加工現場をもつ食品加工メーカーや畜産業、製材所、物流のラスト1マイルを担う運送業者など、あらゆる産業が含まれるでしょう。

 いまや、日本全国どこにいても、規模の大小にかかわらず、誰でもAIを使いこなせるチャンスなのです。そこで必要なのは、AI=技術・テクノロジーという思い込みを捨て、これを自社の「戦略」にどう活かすかという発想に切り替えることです。

 では、そのために、どんな考え方をすればいいのか?

「二重、三重に実りを収穫し続けられるループ構造」とは、どんなものなのか?

 こうした点について、次回お伝えしていくことにしましょう。

■執筆者紹介

堀田 創(ほった・はじめ)
──人工知能研究で博士号を取得し、最注目のAIスタートアップを立ち上げた起業家

株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト。1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。また、「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。『ダブルハーベスト』が初の著書となる。


尾原 和啓(おばら・かずひろ)
──グーグルでAIサービスの国内立ち上げに携わった「企業戦略×AI」のプロフェッショナル

IT批評家。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現KLab)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、グーグルなどに従事。経済産業省対外通商政策委員、産業技術総合研究所人工知能研究センターアドバイザーなどを歴任。単著に『ネットビジネス進化論』『ITビジネスの原理』『どこでも誰とでも働ける』、共著に『アフターデジタル』などがある。