4月2日にバーナンキFRB議長が議会証言で、「景気後退は起こりうる」と初めてはっきりと明言した。3日付け日経新聞によると、民主党のシューマー上院議員の質問に答えたものだ。「今年の前半には、わずかながら減少する可能性もある」とも語っている。中央銀行のトップとして、発言の影響を考えると、随分大胆だ。

 バーナンキ氏は学者出身のせいか、その時点で分かることを率直に言う、という印象がある。前任のグリーンスパン議長の場合、発言にある種の曖昧さがあり、これは物事がうまく行っているという前提で聞くと深みとも思えたが、後の発言や自伝なども含めて振り返ると、彼がもともと民間エコノミスト出身のためか、コンサルタントや占い師が「ほら、私の言ったとおりだったでしょ」と言うために言葉の曖昧さを利用しているような、事後的正当化の臭いがする。一部にはグリーンスパン氏が今もFRB議長でいてくれたらというムードがあるようだが、筆者個人としては、バーナンキ氏のほうに遙かに好感を持つ。

議会証言では
全てを語りきっていない

 4日発表された3月の米国雇用統計によると、雇用者数が前月に比べて8万人減少したという。バーナンキ氏自身も議会証言で「昨年第4四半期から経済活動が明らかに減速している」と述べているが、米国経済が相当なペースで減速しているのは事実のようだ。

 ただ、議会証言の他の部分を読んで思ったのだが、もしかするとバーナンキ氏は、議会で証言したこと以上に、悪い将来を見通しているのではないだろうか。可能性の部分に関しては、彼は気付いたことの全てを、まだ語りきっていないように見える。

 バーナンキ氏の議会証言を見ていこう。まず景気自体に関しては、「今年の後半には金融政策や財政政策の効果を受けて持ち直し、住宅投資も来年には少しずつ回復してくるのではないか」と前向きだ。現実に景気が短期的にそうしたコースを辿る可能性はあるだろう。しかし、続く物価に対する見通しを読むと、少し様子が違う。

 物価に関して、「ドル安と原油・農産物の高騰で物価上昇の懸念はあるが、数四半期で落ち着くだろう」と安心させているが、注目は、この理由だ。「原油や商品の価格が下がる見通し」だとはっきり述べていて、原油や商品の価格が下がるのは「商品需要を押し上げる世界経済の成長が鈍化するためだ」と言及している。中央銀行のトップが商品相場の見通しを堂々と語るのだから、これこそ異例というべきではないか。

 しかも、「数四半期」と言っているから、今年の後半から景気が回復するのではないかという冒頭の米景気への見解とズレがある。彼には、通り一遍の景気見通しとして語る内容とは別の将来像が見えているのではないだろうか。