視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。
不測の事態にも対応する
ロケット科学者の創造的問題解決
昨年の6月頃、近所の理容室で髪をカットしてもらったときに、ささいなことだが感心した出来事がある。
当時は、緊急事態宣言も解除され、少し感染状況が落ち着いた頃だったが、マスクは必需品だった。理容師もマスクを着けて仕事をしている。客もマスクを着けたままなのかな、と思っていたら「どちらでもいい」という。
「着けたまま」を選択したのだが、もみあげを切るときには耳にかけるひもが邪魔になる。どうするのかと尋ねると、「こうすればいいんですよ」と、ひもをクロスさせ、耳のところでXの形になるように着け直してくれた。
「なるほど」と思った。これならそれほど邪魔にならずに、もみあげをそろえることができる。メーカーがわざわざ「散髪用のマスク」を開発するまでもない。
そのつながりで、あるアメリカンジョークを思い出した。結構有名なので、ご存じの方も多いかもしれない。
「宇宙空間でボールペンが使えないことがわかったNASAは、10年の月日と数百万ドルを費やして、無重力環境下や極端な温度差があっても書けるボールペンの開発に成功した。一方、ロシアは鉛筆を使った」
実際には宇宙船の無重力状態で鉛筆を使うと、粉があちこちに飛び散って精密機械に悪影響を及ぼす可能性があるそうだ。しかしこのジョークは「思い込みにとらわれない発想」という点で示唆に富む。