トヨタ自動車は、伝統的に「トヨタウェイ」として「知恵と改善」と「人間性尊重」を2本柱とし、小さな問題に対してもカイゼンを重ね、相互理解と信頼構築を重視してきたマインドフルな組織でした。
しかし、2009年以降、アメリカで大規模リコール問題が大きく取り上げられました。
実は、その兆しは2007年と2008年にあり、外部のコンシューマーレポートでも品質低下が指摘されていました。
しかし、自分たちの品質改善の取り組みで対処できると、積極的なカイゼンは行われませんでした。
その結果、2009年8月にアメリカでレクサスの死亡事故が発生し、2010年8月までに1000万台近くのリコールを実施することになりました。
これは大きな社会問題になり、就任直後の豊田章男社長が、アメリカの公聴会で証言したシーンを覚えている方も多いと思います。
このような問題が起こってしまった背景に、トヨタ自動車がマインドレスな組織の状態に陥っていたことがあります。
ワイクは、マインドレスな組織の特徴として、次の5点を指摘しています。
1.失敗よりも成功にこだわる
2.仮説と解釈を単純化する
3.オペレーションに対する鈍感さ
4.レジリエンスの欠如
5.専門知ではなく権力を重視
当時のトヨタ自動車もこのような状態でした。
1は、小さな失敗を見て見ぬふりして、成功していると考えること。
2は、想定外のことを見ようとしなくなること。
3は、現場と経営層の認識の乖離(かいり)や現場でのカイゼン能力の低下。
4は、発生した問題に対する全社的な復旧能力の欠如。
5は、本社への中央集権により、現場で自分たちの状況を判断する情報が持てない。
このようなマインドレスな組織から脱却するために、トヨタ自動車は2011年3月に「グローバルビジョン」を掲げ、大きな変革に取り組みました。単にスローガンを掲げるだけでなく、グローバルな分権化の推進と、顧客からの声をデータベース化して共有を図りました。
また、顧客からのクレームを集め、分析する部署が編成されるなど、各現場でカイゼンを進め、問題に対するレジリエンスを高める仕組みが整備されていきました。