別の営業担当者は、取引相手から頼まれた書類を作成していたら、「今日はノー残業デーなので、すぐに帰ってください」と上司から言われた。

「はい。でも、この資料、取引先から頼まれていて、明日の午前中に持っていかないといけないんです。終わったらすぐに帰ります」と言ったのだが、上司は「事情はわかります。でも、これは規則ですから」と融通が利かない。今晩中に完成させる必要があることをいくら説明しても、しつこく帰宅を促す。結局、自宅に持ち帰って残りを仕上げざるを得なかったという。

 このような融通の利かない人物にいら立ったことがある人は、少なくないのではないか。しかし、腹を立てていても仕方ない。何とか攻略しないことには仕事に差し障る。こうした人物を動かすにはどうしたらいいのだろうか? まずは、融通の利かなさの背後にある心理法則を理解しておく必要がある。

臨機応変の判断が苦手

 人間も動物であり、本能的に自己防衛に走る。この種の融通の利かない人物も、自己防衛のためにそうした行動パターンを身に付けるようになったのだ。まずは、そこのところを押さえておきたい。

 とはいえ、融通が利かなすぎるのは害でしかない。どうでもよい手続きにこだわり、例外を認めず、何ごとも規則通りに、定められた手順に従って進めさせようとする。こうした人がいるおかげで、不正などの不祥事を防げるということはあるだろう。しかし、せっかくのチャンスに仕事を止められることで支障が出るといった実害を被ることの方が圧倒的に多いはずだ。

 このようなタイプの人たちは、とにかく頭が固い。いくら必要性や切羽詰まった事情を説明しても、柔軟な対応をしてくれない。だからといって意地悪でそうしているようにも思えない。「なぜもっと臨機応変に考えてくれないのか?」と不思議に思うかもしれない。

 実は、彼らは決して意地悪なわけではない。単に融通が利かないだけなのだ。頭の固さは、自分の身を守るための防衛本能によるものといえる。つまり、臨機応変の判断ができないのだ。状況に応じて柔軟に判断する能力に自信がないからこそ、規則順守にこだわるのである。

 状況に応じて臨機応変に判断する自信がない人は、失敗することへの不安が大きい。規則にひたすら従っていれば、その不安を解消できるし、苦手とする柔軟な判断を強いられることもない。しかも、規則に従っていれば、万が一トラブルが発生しても、身を守ることができる。

 たとえば、規則を順守した結果、対応に遅れが出て、仕事の受注に失敗してしまったという場合も、その人が責任を問われることはない。だが、融通を利かせて自分の判断で規則を無視して失敗したとしたら、間違いなく責任を問われる。

 臨機応変の判断が苦手な人の場合、こうした事態を招かないために有効な手段が「規則順守」を徹底することなのだ。しかしそれは、他の人から見れば「頭が固すぎる」となってしまうのである。