チケットレス化の課題は
高齢者への対応

 こうした動きはここ10年で徐々に進行していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、鉄道事業者の収益性が大幅に悪化したことで、人件費や設備投資の削減が急務となり、ますます加速することになった。

 JR東日本が4月30日に発表した2020年度決算の参考資料でも、ワンマン運転の拡大、自動運転の推進と並び、チケットレス、キャッシュレスなど効率的な販売体制の確立により設備をスリム化し、生産性を向上することで、経営体質を抜本的に強化するとの方針が示されている。

 鉄道事業者の事情は分かった。課題はチケットレス化、キャッシュレス化に乗り遅れる人々、例えば高齢者などへの対応をどうするかだ。

『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』書影本連載の著者・枝久保達也さんの『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(青弓社)が好評発売中です

 JR東日本は改札窓口の休止時間帯に、遠隔で係員が案内を行う「お客様サポートコールシステム」や、オペレーターと会話しながら切符を購入できる「話せる指定席券売機」の導入を進めているが、従来の仕組みを前提に、遠隔操作のサポートだけで対応するのには限界がある。

 そうであれば、仕組みの抜本的な見直しに期待したい。これは決して無理難題ではない。例えばICカードの普及は、不慣れな利用者にこそ価値のあるものだったということを見逃してはならない。

 今では高齢者も問題なくICカードを利用しているし、わずらわしい切符購入の手間がなくなったことで、鉄道を利用しやすくなったという人も多いだろう。技術の発展とは、物事をややこしくするのではなく、よりシンプルにするためのものでなければならない。

 鉄道各社が進めるチケットレス、キャッシュレス化が、より多くの人にとって、鉄道を使いやすくするものになることを願いたい。