旧宗主国・英国が再び香港市民に特別ビザを発行

 中国国籍法の導入呼びかけのきっかけになったのは、今年1月末に香港の元宗主国である英国政府が打ち出した「BNO特別ビザ計画」(以下、ビザ計画)である。

 英国は「歴史上の道義的責任」と称して、1997年6月まで香港生まれの市民に発行していた「英国海外国民(British Nationals Overseas)パスポート」(以下、「BNO」)の申請受け付けを再開した。特別ビザ計画では同パスポート所有者が申請すれば、まず無条件で5年間の英国本国居住ビザを発給。その期限切れ時点で簡単なテスト(英語力など)に合格すれば、改めて1年間のビザを発行して、その有効期限中に英国への移民を申請できるというのである。そのため、このビザ計画は「5+1ビザ」とも呼ばれる。

 同ビザによる滞在期間中は就業も就学も可能で、BNO所有者の扶養家族も同じ待遇を受けることができる。さらに英政府はこの4月には当初申請時に求めていた資産証明要項を撤廃し、同時に4310万ポンド(約65億円)の予算を計上して香港人が英国の生活になじむための英語授業料、教材製作、英国と英国の歴史について学ぶ授業の展開などに充てると発表した。加えて、必要に応じて1家庭当たり最大2720ポンド(約41万円)の生活支援まで給付することも明らかにしている。

 英政府はBNOの申請有資格者は約350万人としているが、最新の発表によると、今年1月31日からオンラインで始まった同ビザ計画申請者は、3月末までにすでに3万人に近付きつつあるという。

英国の動きに反発する中国政府

 しかし、中国政府はこの動きに激しい反発を見せた。「英国が中国との誓約を一方的に破った」として、BNOを公的旅券として認めないことを発表、すぐさま香港政府もこれに準じると宣言した。そして香港の親中派も、その勢いに乗って「二重国籍不承認」を唱え出したのである。しかし、親中派香港人の中にもBNOパスポート所持者や海外国籍取得済みの人が多く、その機運はあまり高まっていないのも事実だ。

 中国政府および香港政府のBNO不承認は、実際にはそれほど市民にとって大きな影響はないとされる。というのも、香港政府は別途市民に「香港特区パスポート」(以下、特区パスポート)を発行しており、両者を同時に持つ市民も少なくない。また、住民たちの出入境には政府が発行する身分証(IDカード)を使うシステムがとっくに導入されており、中国に入るにも中国発行の身分証「回郷証」を使用するのが一般化しているからだ。

 だが一方で、メディア報道によると、一部中国に追従する国(サウジアラビアなど)ではBNO所有者の入国を拒絶したなどのケースが報告されている。また、一部航空会社は搭乗チェックインの際にパスポートの提示を求めて、BNOを差し出した人物の搭乗を拒否したというケースもあるらしい。

 そのため、市民は海外に出るときにはBNOと特区パスポートの両方を持参、香港内では特区パスポートを提示し、相手国の入境手続きではBNOを提示する形での臨機応変な策を取り始めた。