4月に入ってドル安傾向が続いているが、主要国通貨の中で円だけがドルに対して強くなれないでいる。それは、周回遅れの新型コロナウイルスワクチン接種、そして変異株を中心とした感染蔓延状況ゆえと思われる。ドル円の取引量も細っており、円自体への関心が低下している。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)
4月以降対主要国通貨でドル売り進むも
円だけが対ドルで大幅売り越し続く
4月以降、為替市場全体ではドル相場の軟化が目立つ地合いだが、対円では大きな動きが見られていない。下のグラフはシカゴ・マーカンタイル取引所のIMM通貨先物取引における対ドルでの主要8通貨の合成ポジション(持ち高)である。
5月18日時点のドル売り持ち高は154.4億ドルと3月9日以来、9週間ぶりの高水準となっている。同データでは4月6日以降、ドル売りが徐々に増えていることが確認できる。
過去1カ月、米国では実質金利低下が顕著であり、それがドル売りをけん引するテーマとして持ち出されることが多い。しかし、ドル売りの勢いは相手通貨によって異なる。
例えば、過去1カ月半(4月6日~5月18日)に関し、対ドルで最も買いが膨らんだのがユーロであり、ネットで52.3億ドルの買い持ち増加が見られた。4月に入ってからの行動制限解除やこれに伴う今4~6月期の成長率のプラス復帰などを当て込んだ動きと察する。
次に買いが膨らんだ通貨はカナダドルであり、ネットで36.1億ドル、買い持ちが増えている。
この間、順調なワクチン接種を背景としてカナダの経済・金融情勢に対して見通しが大きく改善し、BOC(カナダ銀行)が量的緩和の段階的縮小(テーパリング)に踏み切るという大きな動きも見られた。そうした動きが素直に投機筋の取引状況にも反映されているということだろう。
一方、5月18日時点で円もネットで見れば7.6億ドルほど減少しているが、全体ではマイナス58.5億ドルと依然、ネット売り越しのままだ。
上のグラフに示される通りだが、主要通貨でネット売り越しがはっきり続いているのは円くらいである(スイスフランも売り越しだが、非常に少額である)。為替市場における円売り意欲は根強いものがあるように見受けられる。