多くの企業にAIソリューションを提供する「シナモンAI」の共同創業者として、日本のDXを推進する堀田創さんと、数々のベストセラーで日本のIT業界を牽引する尾原和啓さんがタッグを組んだ『ダブルハーベスト──勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』が、発売直後にAmazonビジネス書第1位を獲得し、さまざまな業界のトップランナーたちからも大絶賛を集めている。
今回のトークは、『ダブルハーベスト』について「芯を捉えた内容。私があちこちで話していることとまったく同じ」と太鼓判を押すソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長の北野宏明氏をゲストにお招きした。
AIでできることとできないこと、ハーベストループを回す前提となるデータはどんなものか、DXを推進するときにAIをどうやって組み込むか、そのときに陥りやすい罠について、著者の堀田さんとシナモンAI代表の平野未来さんが聞いた(構成:田中幸宏)。

経営陣の「なんでもいいからDXをやれ!」の号令が陥る罠【ゲスト:北野宏明さん】

「ロボットがハンコを押す=デジタル化」ではない

▼前編の記事はこちら▼
「データはあるが、使い方がわからない」という企業に欠けている視点【ゲスト:北野宏明さん】
https://diamond.jp/articles/-/271521

──3つめのテーマは「DXにおけるAI戦略の重要性」です。DXに取り組んでいる企業、そうでない企業があると思いますが、これから3~5年でどれくらい差がついてくるのでしょうか? また、そのときにAI導入はどんなふうに関わってくるのでしょう?

平野未来(以下、平野) いわゆる企業ランキングにまで影響するはずです。コロナ禍で多くの日本企業がDXの遅れに危機感をもつようになりました。日本企業が本気になったときはすごいなと実感しています。最近取引がある企業さんも、知り合ってから1ヵ月後には、「平野さん、次の経営会議でプレゼンしてください」と言われて、そこから話がバンバン決まっていきました。それくらいのスピード感なので、それをやらない企業とやった企業では、どんどん差が開いていきます。

堀田創(以下、堀田) 3年から5年というスパンでいうと、やった企業とやらない企業ではたまったデータの量やノウハウの量が大きく違うはずです。それがどういう違いにつながるかというと、AIのメリットは指数関数的に増えていく、つまり、最初の1、2年はなかなか成果に結びつかないけれども、あとになるほど、加速度的に発展していくわけです。とすると、3年後、5年後には、大きな差が開いているということです。

 逆に言うと、最初の1、2年はひたすらデータをためていくしかないわけです。目に見える成果はなかなか出ないかもしれないけれど、粛々とループを回し続ける忍耐が必要です。そのループが本当の「ハーベスト(収穫)」を生むのは3年後くらいからです。それまでは、従来のITとあまり違わない。でも、だからといってAIなんて役に立たないと見切りをつけてしまうと、3年後、5年後に後悔することになります。

経営陣の「なんでもいいからDXをやれ!」の号令が陥る罠【ゲスト:北野宏明さん】堀田創(ほった・はじめ)
株式会社シナモン 執行役員/フューチャリスト
1982年生まれ。学生時代より一貫して、ニューラルネットワークなどの人工知能研究に従事し、25歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了(工学博士)。2005・2006年、「IPA未踏ソフトウェア創造事業」に採択。2005年よりシリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業したのち、同社をmixiに売却。さらに、AI-OCR・音声認識・自然言語処理(NLP)など、人工知能のビジネスソリューションを提供する最注目のAIスタートアップ「シナモンAI」を共同創業。現在は同社のフューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。また、「イノベーターの味方であり続けること」を信条に、経営者・リーダー層向けのアドバイザリーやコーチングセッションも実施中。認知科学の知見を参照しながら、人・組織のエフィカシーを高める方法論を探究している。マレーシア在住。『ダブルハーベスト』が初の著書となる。