パナソニックOBの上場企業「植民地化」騒動、次の標的はパナ次期社長と深い因縁Photo by Hiroyuki Oya

社長交代を6月24日の株主総会に控え、新体制への移行を進めるパナソニック。その端境期に、ある上場メーカーの経営権を巡る、経営陣とパナソニック元副社長が関わる非上場会社との戦いが物議を醸している。その非上場会社は、グループ内の上場企業にパナソニックOBを続々と送り込んでおり、上場メーカーがこうした「植民地化」の動きに抵抗する構図だ。そして今回ターゲットとなった上場メーカー、実はパナソニックの次期社長である楠見雄規氏とも因縁浅からぬ関係にある。(ジャーナリスト 名古屋和希)

元パナソニック副社長が取締役の会社に
「組合つぶし」の悪評

「登場人物」はシステム開発などを手掛ける非上場のTCSホールディングスと、東京証券取引所第1部上場でTCSグループが3割超出資するベルトコンベヤー開発、NCホールディングスだ。

 事の発端は、4月下旬に、TCSがNCに出した株主提案である。NCが出した現社長、梶原浩規氏らの取締役選任を盛り込んだ会社提案に真っ向から反対し、新たに7人の取締役の選任を求めている。

 このTCSという非上場会社に聞き及びはないかもしれない。だが、意外な人物がこの会社の取締役を務めている。その人こそパナソニック元副社長の坂本俊弘氏である。

 坂本氏といえば、元パナソニック社長の中村邦夫氏の最側近としてブランド戦略を担当。プラズマテレビへの過剰投資や巨額減損を迫られた三洋電機の買収によって名門電機の凋落を招いた、中村体制を支えた戦犯の1人に数えられることもある。TCSグループ関係者によると、パナソニックの副社長退任から1年半後の2014年にTCSの創業者に迎え入れられたという。

 TCSのホームページによると、グループの19年3月期の連結売上高は1218億円で、グループ企業はNCなどの上場メーカーも含め50社近くに上る。だが、グループの拡大手法が問題視されることもある。TCSのグループ会社幹部はこう説明する。「ターゲットとなる上場企業の株式をグループの複数企業で少しずつ集めて経営支配する」。実際、NCの株式もグループ23社で計3割超が保有されており、今回の株主提案も23社の連名で出されたものだ。

 加えて、グループ会社の労働組合関係者がTCSの問題手法として明かすのは、グループ化した後の過酷なリストラである。例えば、TCSから2割弱の出資を受ける東証2部のカメラ製造、セコニックホールディングスは、労働協約の一方的な破棄によって労働組合が事実上壊滅した。

 同関係者はこの「労組つぶし」の理由をこう説明する。「組合を事実上なくした後に賞与を大幅にカットするなどして人件費を削減する」。同関係者によると、出資先に新たに持ち株会社をつくり、そこで社員を採用して、出資先企業の労組を骨抜きにする手法も採られるという。