株主利益の最大化を重視する株主資本主義に代わって、顧客や従業員、地域社会などあらゆる利害関係者に配慮する「ステークホルダー資本主義」が台頭している。その中で、企業のパーパス(目的、存在意義)も問われている。特集『トップMBAが教える 新・資本主義』(全5回)の#2は、サントリーホールディングスの新浪剛史社長と大学院大学至善館の野田智義理事長との資本主義を巡る対談の後編。(構成/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
欧州企業のまねをして
日本企業が陥る危険
野田 欧州企業は今、パーパスというものを経営戦略の中心に据えています。Chief Purpose Officer(最高パーパス責任者)がいて、KPI(重要業績評価指標)も作られている。
欧州企業が取り組んでいるこのパーパスは、「どんな価値を人と社会に対してつくり出していくのか」ということへの企業からの約束です。日本の経営の現場でもパーパスという言葉は使われるようになってきたけれど、日本企業が考えがちな「存在意義」のようなふわっとした話とはちょっと違う。
日本企業がパーパスをどこまで戦略のベースとし、社員一人一人の行動やマインドセット、昇進基準とし、事業を選択する上での尺度に使えているかというと、まだまだそんなに多くの企業でできているとは思えません。
あえて挑戦的に言うと、冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)がいつもこう指摘しています。「日本でパーパスなんて言うと危険だよ。日本企業が『それこそわれわれがやってきたことだ。社会の公器として、三方良しの発想でやってきた。だからもう十分だ』と言って何もしなくなる」と。僕もその危険はものすごく感じる。