こうした状況から、経済を取るのか感染拡大防止を取るのかをめぐって国内では激論が続いているが、すでに答えは出ているように思える。その理由は、大きな声こそ上げていないものの、大方の国民はワクチン接種が進んでいない現実をよく理解しており、リスク回避を最優先したいと考えている可能性が高いからである。

 今、説明した通り、2021年1~3月期のGDPは緊急事態宣言の発出によって大きな落ち込みとなった。確かに政府による宣言発出の影響は大きいだろうが、必ずしもそれだけが景気低迷の原因とはいえない。その理由は、前回(2021年1月)の緊急事態宣言も、今回の緊急事態宣言も、政府が現実の感染状況を後追いしているだけであり、宣言が発出される前から人出が減っているからである。

 つまり、政府よりも国民の方が事態の推移を冷静に受け止め、政府に先んじて行動を自粛していた可能性が高く、これが国民の総意と考えられるのだ。

大方の国民は
宣言を先回りして自粛

 例えば、前回の緊急事態宣言は2021年1月8日に発出されたが、東京駅の人出は12月末から急激に減少している。2020年12月中旬時点で、2020年1月との比較で約4割減だった人出は年末から一気に減り、一時は7割減まで落ち込んだ。今回についても、皮肉なことに前回の緊急事態宣言が解除された後、まん延防止等重点措置が実施された頃を境に人出が減り始めている。

 つまり、緊急事態宣言の発出よりも国民の行動の方が先であり、コロナ感染者の数が増加したという情報を頼りに、国民が行動を自粛していることが推察される。結果として、政府の緊急事態宣言が国民行動を後追いする形になっている。

 世の中では、コロナを過度に心配する人をバッシングしたり、政府や自治体が飲食店の営業について制限を加えたりすることに反発する意見が目立つ。政府関係者で同様の発言をする人もいる。こうした人たちは声が大きいのでかなりの勢力に見えるのだが、実際のところ、大方の国民は、日本のワクチン接種が進まないことにいら立ってはいるものの、現実問題として外出自粛以外にリスクを回避する方法がないことを理解している可能性が高い。