「私が何とかしなくちゃ」と思ってしまう……
自分が困っていなくても、周りに困っている人がいるだけで胸が苦しくなることがありませんか?
周りの情報を細やかに感じとっている傷つきやすい人にとって、「暮らす」とは、周りからの情報の渦の中に生きることそのものです。ほんのわずかな情報をきっかけに心は激しく揺れ動きます。
たとえば、職場の空気が少しでもすさむと、自分ごとのように気になり、その場にいることに耐えられず、誰にも相談しないまま退職してしまう人もいます。
傷つきやすい人は、できるだけおだやかな環境で落ち着いて過ごしたいから、少しでもイヤな動きを感じとったら、大事になる前に何とかしておきたいと願うのです。しかも、「完璧に」と思います。
イヤな動きが二度と起こらないと確信できるまでは、心から安心できません。そのため、原因からしっかり対処したいと考えます。
「私もたいへんな状況にある。けれど、あの人ほどじゃない。私がちょっとがんばったら、みんなが平穏に過ごせる」
これが傷つきやすい人に見られる典型的な考え方です。
安心で安全な環境を求める思いが真剣すぎて、周りへのアンテナが鋭くなってしまうのです。
私が以前働いていた会社でのことです。
隣の席の男性が、毎日小さくため息をつきながら卓上カレンダーにバツをつけて、「給料日まであと何日かなあ」とカウントダウンしながら過ごしていました。彼は、社内会議で上司からハッパをかけられており、どうやらスランプ状態のよう。周囲の助言にもあまり反応を見せない様子が気になり、私はある日、彼の上司に「彼、大丈夫かなあ? 毎日卓上カレンダーにバツつけて、ため息ついてるよ」と話しました。
ところがその上司は、「ほっとけばいいんだよ。みさきさん、ちょっとオーバーなんじゃない?」と言ってスルーしたのです。
私には理解できませんでした。彼にもっと寄り添ったフォローが必要では? 彼のモチベーションが下がったら、退職してしまうかもしれないのに、そうは思わないの!? と驚き、上司の無神経さにいら立ちを感じたほどでした。
小さな会社だったので、人が一人やめるだけで周りへの仕事の負担が大きくなります。ところが、周りの人に心配する気配はなく、誰も彼に手を貸しません。私の意見を聞いてくれる人もいませんでした。
「気がついている私が何とかするしかない」と、私は半ばあきらめつつ男性に声をかけるようにしたのです。