これは、組織行動学の研究者であるエイミー・レズネフスキー教授が分類した人間の3つの仕事観にも見事に当てはまっている。お金や生きるためだけに仕事をする「ジョブ・レベル」、キャリアアップやプライベートを楽しむための「キャリア・レベル」、仕事自体にやりがいを感じ、貢献したいという意欲に満ち、仕事の成功だけで満足感を得られる「コーリング・レベル」だ。そして、各レベルの割合は、どんな職業であっても変わらないという。

 この3つのレベルのなかで、最も幸福度が高いのは、自らの仕事に使命感を感じ、天職と思える「コーリング・レベル」である。そして企業には、それ以外のレベルの従業員をどうやってコーリング・レベルまで引き上げるかが課題となるだろう。

 自分の仕事に対して作業内容を把握するだけでなく、意味や意義を見出し、自身のスキルや能力を高めることで、会社や仲間に貢献して天職と感じられるようになると、幸福度も上がる。その結果として会社の生産性も向上していくと、アンリ・ジャールは語っている。

採用の決め手となるのは人柄。その理由は

 会社側がどんなに従業員のエンゲージメントを高めようと努力しても、残念ながら限界がある。そもそも協調性がなく社内の従業員とうまくやっていく気がない人では、ほかの優秀な人材の足を引っ張ってしまうことにもなるのだ。だからこそ、採用時からの対策が不可欠。クライアントや自社の商品・サービスに対しての基本的なスタンスが同じかどうかを事前に確認し、そのうえで、会社の経営陣や従業員と価値観を共有できるかを見極めなくてはならない。

 人柄とは、その人の生まれ持った性質のこと。心に近いものといえる。アンリ・ジャールは採用時にその人柄をしっかりと見極め、人柄のよくない人は採用してはいけないと言っている。能力や技術は入社後の指導で変えていけるが、心を変えるのは難しいからだ。

 代表的な人柄のよさとは、まず、プラス思考であること。楽観主義と悲観主義という分け方があるが、悲観主義はその時の気分に大きく左右され、自分に起きた悪いことはすべて外的要因からと考えてしまう。一方、楽観主義の人は、自身の意思や目標をしっかりと持ち、周りから影響を受けたとしても揺らぐことがないのだ。

 こうしたプラスの思考を持てる人を採用し、価値観を共有することができれば、会社全体が同じ方向を向き、迷うことなく業務を進めることができる。会社を継続的に維持・成長させていくのは、技術や営業力だけでない。最も重要なのは、従業員の力である。だからこそアンリ・ジャールは、人材を採用する際に、その人が持つスキルではなく、「この人と一緒に仕事をしたいかどうか」、価値観や人柄で選び、心を通い合わせることができる相手であることが大切となる。

 成功したから幸せなのではなく、幸せな気持ちが多くの成果をもたらしている。従業員の幸福度の高さが会社を成功に導いているということを理解していただけただろうか。そして、さらなる成長のために社内の生産性の向上を求めるならば、従業員個人のエンゲージメントを高めていかなければならないという。次回はその点について掘り下げていこう。