第二の問題は、介護施設の需要と供給のアンバランスである。

 空室率が高い施設の多くは、富裕層向けもしくは不動産投機が目的であるものだ。高級路線の施設は、五つ星ホテルと間違えられるような、豪華な玄関があり、部屋にも高級家具が置かれている。ただ、そこで悠々自適に老後を送ることができるのは、一握りの富裕層と一部の「上級国民」だけだ。

 一方で、料金がリーズナブルで、立地などの条件も良く、中間層が利用しやすい施設は数が不足している。ゆえに、全体で見ると約5割もの高い空室率であるにもかかわらず、多くの高齢者が入りたい施設はなかなか見つからないという現状がある。

 最後に、「介護人材の著しい不足」だ。現在、中国の介護人材は約1000万人不足しているといわれている。中国の介護施設では、1人のスタッフが8~12人の入居者を見て、1日12時間働き、休日は週1日というところも多い。

 現場で働くスタッフの特徴は、これまで「三高三低」と称される。つまり、「リスクが高い、労働強度が高い、離職率が高い。一方で、社会的地位が低い、給料が低い、学歴が低い」。ここ数年、スタッフの年齢が年々“高く”なったことで、今は「三低四高」といわれている。

 最新の調査では、50歳以上のスタッフが全体の70%を占めていて、学歴が高卒以上の人は12%である。現場では、人材のほとんどが「4050」といわれる40代~50代の地方からの出稼ぎの女性たちだ。近年、政府も民間も若者に介護業に就職してもらうため、さまざま奨励金制度や無料の研修などの施策を講じているが、介護の仕事は若者に不人気であることに変わりはない。

独自の発想で成功する国内事業者も
政府の目標は「量」から「質」へ

 最後に、高齢化が進む中国社会で、日本をはじめとする外資企業がビジネスチャンスをつかむにはどうすればいいのか、整理してみたい。

 中国国内で高齢社会への関心が高まる中、国有企業、大手デベロッパー、保険会社などがこぞって介護事業に参入している。そうした企業は、日本をはじめ海外の先進事例を熱心に研究し取り組んでいる。

 制度が整備されていないがゆえに、自由な発想で介護サービスを向上させており成功している介護事業者も少なからず出始めている。筆者が日本の医療・介護関係者に中国の優れている施設や特色のある施設を案内した際には、多くの関係者が驚き、「日本はあと何年の間、介護の先進国でいられるのか」と強い危機感を持っていたくらいだ。

 現在、中国国内で介護事業で成功し、話題となっているのは全て国内の事業者であり、日本を含め外資系は軒並み苦戦している状況である(これらの理由については、過去コラム『中国より日本のほうが「介護先進国」は本当か』『中国から日本の介護施設に見学者が殺到している理由』を参照してほしい)。社会制度や生活習慣、文化などの違いがあるため、日本式の介護をそのまま持ち込んでもうまくいかないことは明白であるが、これに加えて、中国の現地情報が著しく不足しているのではないかと思う。