地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、6万部を突破した『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏だ。日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。本連載は、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだものである。
災害大国に住むための「基礎知識」とは?
7月3日、静岡県熱海市で土石流が発生し、残念ながら多くの方々が行方不明となってしまいました。1日も早い救出・救助、災害復興を期待します。被害に遭われた方々へお見舞い申し上げます。
毎年、日本では風水害が発生しています。特に最近10年の間では、毎年2つ以上の大きな風水害が発生しています。風水害とは、強い風や大雨によってもたらされる自然災害であり、洪水や高潮、土砂崩れ、竜巻、突風などが該当します。
日本では、長引く大雨、短時間の急激な豪雨、そして台風によってもたらされることが多く、「東京都防災ホームページ」では、「特に注意が必要な気象」に区分されています。また、「特に注意が必要な場所」として、地下室・半地下家屋、河川、山間部などが挙げられています。
特にこの時期は梅雨の時季でもあり、もはや日本は梅雨も入れて「五季」なのではないかと思うほど長い期間、梅雨前線の影響を受けます。また日本列島に台風が近づくと、雨雲が供給されて前線がさらに活発化することもあります。そうなると短時間の急激な豪雨となることがあります。
災害は風水害だけではありません。国土交通省は「重ねるハザードマップ」と題して、災害別に発生リスクの高い地域を示しています。
今回、土石流が発生した場所を確認すると、「土石流警戒区域」となっていました。今回の土砂崩れに関して、様々な人為的要因が指摘されると思いますが、土石流の発生場所が「土石流警戒区域」となっていましたので、自然的要因は見逃せない事実です。
日本の国土面積は世界61位と世界の上位3分の1に入る、比較的大きい国ですが、その割合は世界の0.28%しかありません。しかし2000~2009年の間に発生したマグニチュード6以上の地震の数は、日本だけで世界の20.5%も占めているのです。
他にも統計データを示すと、1979~2008年の間の災害で受けた被害金額は11.9%が日本のものとされています。
阪神・淡路大震災の教訓とは?
用語として不適当かもしれませんが、日本が「災害大国」であることは間違いありません。日本という国がもつ「土台」を考えると、防災教育が大きな意味を持つはずです。阪神・淡路大震災のさい、復旧・復興に向けた瓦礫撤去作業が役場での申請順だったようで、その確認作業は手作業だったといわれています。
そのため申請から撤去が完了するまでに時間がかかってしまい、場所によっては数ヵ月も待つこともありました。これでは非効率なので、一部の地域でGIS(地理情報システム)によるマッピングが試みられ、撤去作業を効率化することができました。
高等学校において、2022年度から必修化される「地理総合」では「防災教育」「GIS」などを学ぶことになっています。
今後の地理教育については、色々と問題が山積していますが、まずは防災教育の意識付けを学校現場で行うようになるのは喜ばしいことです。
そして、日本で生活する限り、日本列島の多くの場所が「自然が荒ぶる場所」であることを自覚し、「それがどこなのか?」は自ら獲得すべき知識といえます。大げさかもしれませんが、家を選ぶ、住む地域を決めることは、命を繋ぐことでもあるのです。
まずは、日本列島と真剣に向き合ってみるところから始めてみませんか?
宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当。いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、YouTubeチャンネルの運営など幅広く活動。
「土地と資源の奪い合い」から、経済が見える!
経済を動かしているのは地理である。
世界の経済情報を観察していると、そう思えることが多々あります。
なぜ、土地も資源もない日本が経済大国になれたのか?
なぜ、中国は2015年に一人っ子政策をやめたのか?
なぜ、トランプ大統領はTPPから離脱したのか?
これらの因果関係を解明するヒントは「地理」に隠されています。
地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語、村落・都市にいたるまで、現代世界で目にする「ありとあらゆる分野」を学びます。
「地理」を英訳すると「Geography」です。これはラテン語の「Geo(地域)」と「Graphia(描く)」からなる合成語といわれています。
現代においては、写真を1枚撮るだけで、自然はもちろんのこと、そこで暮らす人々の衣食住、土地利用など、実にさまざまな情報が写し出されます。
しかし、カメラが存在していなかった時代は、これらの情報をすべて描き出していたのです。まさしく「Geo(地域)」を「Graphia(描く)」。これが地理の本質なのです。
地理とは、表面的な事実の羅列ではありません。「地域」に展開するさまざまな情報を集め、分析し、その独自性を解明するものです。地理を学ぶことで、土地と資源の奪い合いで示される人間の行動に、より深い解釈を加えることが可能です。
仕事に効く「教養としての地理」
本書『経済は地理から学べ!』は、「立地」「資源」「貿易」「人口」「文化」という5つの切り口から、今と、そして未来をつかむための視点を提供します。
地理では、さまざまな要素がかかわり合って「物語」が成り立つことを「景観(けいかん)」といいます。現代世界を単なる出来事として頭に残すのではなく、「誰かに話したくなる」ような、背景知識を持っているだけで世界は面白くなります。
本書を通して、世界の「今」を見定め、そして「未来」を先取りしてください。
『経済は地理から学べ!』
6万部突破のベストセラー!
「立地、資源、貿易、人口、文化」を知れば、世界はこんなに面白い!
★トランプのTPP離脱を読むカギは“国境”
★日本経済を秘かに支える“水の力”とは?
★EU経済の急所は“2つの河”にあり
地理とは、地形や気候といった自然環境を
学ぶだけの学問ではありません。
農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。
【目次】
序章 経済をつかむ「地理の視点」
第1章 立地:地の利を活かした経済戦略
第2章 資源:資源大国は声が大きい
第3章 貿易:世界中で行われている「駆け引き」とは?
第4章 人口:未来予測の最強ファクター
第5章 文化:衣食住の地域性はなぜ成り立つのか?
特別付録「背景がわかれば、統計は面白い」
地図で読み解く44の視点
地理がわかれば、世界はもっと面白い!